創業計画書を前にして、どの欄に何を書けばいいのか手が止まる。始めたばかりの方から、よく聞く悩みです。欄の名前は分かっても、そこに「自分の事業なら何を書くのか」がすぐには出てこない、という状態です。
創業計画書は、日本政策金融公庫などが融資の申込みに使う、決まった様式の書類です。とはいえ問われていることは、突きつめれば「なぜ始めるのか」「何を売るのか」「お金はどうするのか」といった、事業を説明するうえで欠かせないことばかりです。
この記事では、創業計画書で一般に問われることを、架空のパン教室を仮に立てて、一つずつ埋めてみます。仮の数字を使いながら「この事業なら、この欄はこう書ける」という記入例の形で、各欄の書き方のコツを見ていきます。
なお、正式な項目名や記入要領は様式によって異なり、変わることもあります。ここで扱うのはあくまで一般的な構成と考え方です。実際の様式や最新の記入要領は、日本政策金融公庫の公式ページ(日本政策金融公庫)で確認してください。
この記事の要点
- 創業計画書は、おおむね「動機・経歴・商品/サービス・取引先/販売先・必要な資金と調達・事業の見通し」といった塊で問われます。この記事では架空のパン教室を例に、各塊を仮の数字で埋めていきます。
- 動機は思いつきでなく、経歴とつなげて書きます。「なぜあなたがこれをやるのか」が、これまでの経験から自然につながって見えることが大切です。
- 見通しは願望でなく、単価×人数のような積み上げの根拠を添えます。資金は「何にいくら必要で、どこから出すか」を噛み合わせて書きます。
- 完璧を目指す必要はありません。まず全欄を一度埋めてみて、弱いところ・空欄が残るところを、あとから調べ直して固めていけば十分です。
創業計画書は、おおむね「6つの塊」でできている
細かな様式の違いはあっても、創業計画書で問われることは、大きく次のような塊に分けられます。
| 塊 | おおまかに問われること |
|---|---|
| 創業の動機 | なぜこの事業を始めるのか |
| 経営者の略歴・経歴 | これまで何をしてきた人か |
| 商品・サービスの内容 | 何を、誰に、いくらで売るのか |
| 取引先・仕入先・販売先 | 誰から仕入れ、誰に売るのか |
| 必要な資金と調達方法 | 何にいくら要り、どこから出すか |
| 事業の見通し | どのくらい売れ、いくら残るのか |
一つずつは難しい問いではありません。ただ、これらがばらばらだと計画として弱くなります。動機と経歴がつながり、商品と見通しの数字が噛み合い、資金と売上が矛盾しない。全体がひとつの筋で通っていることが、埋めるときの土台になります。
ここからは、架空の「自宅で開く小さなパン教室」を例に、各塊を順に埋めていきます。登場する数字はすべて説明のための仮のもので、実在の事業や統計とは関係ありません。
動機と経歴は、切り離さずつなげて書く
最初につまずきやすいのが、創業の動機です。「パンが好きだから」「自分の教室を持ちたかったから」でも嘘ではありませんが、これだけだと思いつきに見えてしまいます。
コツは、動機を経歴とつなげることです。読む人が知りたいのは、熱意そのものより「なぜ、ほかでもないあなたがこれをやるのか」です。その答えは、たいていこれまでの経験のなかにあります。
架空のパン教室で書いてみると、次のようになります。
創業の動機(記入例) パン作りを教える教室を、自宅で開くために創業します。前職のベーカリーで5年間、製造と新人指導にたずさわるなかで、「家庭でも失敗せずに焼けるコツを、少人数でていねいに教えてほしい」という声を客から何度も聞きました。大人数の教室では物足りない層に向けて、一度に4人までの少人数制で教える場を作りたいと考えています。
ここでは、動機(少人数で教えたい)が、経歴(ベーカリーで5年、製造と指導を経験)と、気づき(客の声)で自然につながっています。「好きだから」だけのときと比べて、なぜこの人がやるのかが見えます。
経歴の欄は、この動機を裏づける材料になります。だからこそ、動機と経歴は別々に考えず、セットで組み立てます。
経営者の略歴(記入例) ・製菓専門学校を卒業後、ベーカリーに就職 ・在職5年のうち後半2年は、新人スタッフの製造指導を担当 ・退職後、自宅キッチンを教室用に整え、知人向けの体験レッスンを数回実施
経歴は、事業に関係することを中心に、時系列で簡潔に並べれば十分です。担当した役割や、教えた経験のように「今回の事業につながる点」を落とさないのがコツです。関係の薄い経歴まで細かく書く必要はありません。
商品・サービスと、取引先・販売先の書き方
次は、何を売るのかという商品・サービスの欄です。ここでは「誰に・何を・いくらで」が具体的に浮かぶように書きます。
商品・サービスの内容(記入例) ・少人数制(1回4人まで)のパン作りレッスン。1回2時間、参加費3,000円(仮) ・平日昼のクラス(子育て中の主婦向け)と、土曜午前のクラス(働く人向け)を用意 ・基礎コースのほか、月替わりの季節パンを扱う応用回も実施
「パン教室をやります」だけで終えず、誰に向けたどんなクラスを、いくらで提供するのかまで書くと、読む人が中身を思い浮かべられます。価格を仮に置くのも大切で、あとの見通しの数字と噛み合わせる必要があるからです。
続く取引先・仕入先・販売先の欄は、教室のような事業だと身構えがちですが、考え方は同じです。誰からモノやサービスを仕入れ、誰にサービスを売るのかを書きます。
仕入先・販売先(記入例) ・仕入先:小麦粉やバターなどの材料は、近隣の製菓材料店と業務用通販から仕入れる ・販売先(お客さん):教室の近隣に住む、パン作りに関心のある個人。平日クラスは子育て世帯、土曜クラスは働く層を想定
販売先は、誰がお金を払ってくれる相手かを書く欄です。ここが商品欄で想定したお客さんとずれていないかを確かめます。平日クラスは子育て世帯、と商品欄に書いたなら、販売先にも同じ層が出てくるのが自然です。欄をまたいで話が食い違わないことが、計画全体の信用につながります。
必要な資金と調達は「何にいくら・どこから」を噛み合わせる
お金の欄は、多くの人が身構えるところですが、やることは決まっています。何にいくら必要か(使いみち)と、そのお金をどこから出すか(調達)を、両側でそろえることです。金額の合計が左右で一致する、という点だけ押さえれば形になります。
架空のパン教室で、仮の数字を置いてみます。
| 必要な資金(使いみち) | 金額(仮) | 調達の方法 | 金額(仮) |
|---|---|---|---|
| 業務用オーブン・調理器具 | 30万円 | 自己資金 | 20万円 |
| 当面の材料費・家賃など(運転資金) | 20万円 | 借入 | 30万円 |
| 合計 | 50万円 | 合計 | 50万円 |
左側は「何を買い、当面いくら手元に要るか」、右側は「その50万円を、自分の貯金と借入でどう用意するか」です。合計が両側で一致しているのがポイントです。
書くときのコツは、設備のような一度きりの出費(設備資金)と、材料費や家賃のように毎月出ていくお金の当面分(運転資金)を分けて考えることです。開業時にモノをそろえるお金だけでなく、売上が軌道に乗るまで事業を回すお金も要る、という視点が抜けやすいところです。
調達側では、自己資金がいくらあるかも見られます。仮の例では50万円のうち20万円を自分で用意しています。自己資金と借入のバランスについては様式や制度によって考え方が異なるため、具体的な割合や条件は断定できません。実際の要件は公式ページで確認してください。
事業の見通しは、願望でなく積み上げの根拠で
最後が、事業の見通しです。ここは、書く人によって最も差が出やすい欄と言えます。願望で大きな数字を置くか、積み上げの根拠を添えるかで、計画の説得力が変わるからです。
やってはいけないのは、「月30万円は売りたい」といった希望の数字をそのまま書くことです。代わりに、単価と数量を積み上げて、なぜその金額になるのかを見せます。
売上の見通し(記入例) 参加費3,000円(仮)× 月に延べ40人 = 月の売上 12万円(仮) ・平日クラス:週2回 × 4人 = 週8人 ・土曜クラス:週1回 × 3人 = 週3人 ・月あわせて、延べ40人ほどを見込む
同じ「月12万円」でも、単価×人数の内訳があると、読む人はその数字の出どころを追えます。人数を控えめに見積もっているかどうかも判断できます。ここで大切なのは、金額の大きさより、数字に道すじがあることです。
売上から経費を引いた残りも、同じように仮の数字で置いてみます。
| 項目 | 月額(仮) | 考え方 |
|---|---|---|
| 売上 | 12万円 | 3,000円 × 延べ40人 |
| 材料費など | 3万円 | 参加費のおよそ4分の1と仮定 |
| 家賃・光熱費の按分など | 2万円 | 自宅の一部を教室に使う分 |
| 残り(利益の目安) | 7万円 | 売上から経費を引いた額 |
数字はすべて仮ですが、こうして並べると「12万円売れて、経費を引くと手元に7万円ほど残る」という筋が見えます。この残りが、借入の返済や自分の生活に回せる分の目安になります。
なお、この売上や利益の数字をどう組み立てるか、値上げや客数の見込みをどう詰めるかは、それだけで一つのテーマです。見通しの数字づくりを深めたいときは、数値計画・売上予測の立て方で扱っています。
まず全欄を埋めて、弱いところを調べ直す
ここまで各欄の記入例を見てきましたが、最初から完璧に埋めようとする必要はありません。むしろ、まず一度、全欄をざっと埋めきるほうを先にすることをおすすめします。
はじめから一欄ずつ完成させようとすると、たいてい難しい欄で手が止まり、全体が進みません。仮の言葉・仮の数字でかまわないので、まず最後の欄まで通します。全体を一度埋めると、欄と欄のつながりや、弱いところが見えてきます。
そのうえで、埋まらなかった欄・薄いと感じた欄を、あとから調べ直します。空欄や矛盾は、悪いことではなく、詰め切れていない部分を教えてくれるサインです。
- 動機が弱いと感じたら、経歴とのつながりを見直す
- 見通しの数字に自信が持てないなら、単価と人数の根拠を数値計画・売上予測の立て方で詰める
- そもそも何を売るかが揺れているなら、事業の土台に立ち返る(独立・開業の始め方)
書く作業と、中身を調べ直す作業を行き来しながら、少しずつ精度を上げていけば十分です。一度で完成させるものではなく、直しながら仕上げていくもの、と捉えると気が楽になります。
創業計画書そのものが何を問う書類なのか、様式全体の位置づけを先に押さえたい場合は、創業計画書とはを先に読むと、各欄の意味がつかみやすくなります。
AI時代の応用・次の一歩
創業計画書の下書きに、生成AIを役立てることもできます。使いどころを絞れば、手を動かす負担を減らせます。
たとえば、経歴のメモを渡して「これを動機の欄につながる形で短くまとめて」と頼めば、動機と経歴をつなぐ文章のたたき台が得られます。書き上げた各欄を渡して「読み手として、根拠が弱い欄や矛盾している点を指摘して」と点検役に使うのも向いています。文章を整える・食い違いを見つける、といった作業はAIの得意分野です。
いっぽうで、鵜呑みにはできません。AIは、渡していないあなたの事業の事情までは知りません。放っておくと、それらしい大きな売上や、当たりさわりのない動機を埋めてくることがあります。そのまま使うと、この記事で避けたかった「根拠のない数字」「思いつきの動機」に、かえって近づいてしまいます。
数字の根拠や、自分の経歴ならではの中身は、最後は自分で確かめて言葉にする。AIには整えることと点検することを任せ、判断はこちらが持つ。この線引きをしておくと、便利に使いつつ、伝わる計画書から遠ざからずにすみます。
次の一歩として、まずは架空の例にならって、自分の事業で全欄を仮に一度埋めてみてください。数字を固める段になったら数値計画・売上予測の立て方、書き方の表現面を整えたいときは事業計画書の書き方へと進めます。
よくある質問
創業計画書は、どの欄から書き始めるとよいですか。 書きやすい欄からで問題ないと考えられます。動機や経歴のように言葉にしやすい欄から埋め、数字が要る見通しや資金は後回しにすると進みやすくなります。順番より、まず全体を一度埋めきることが大切です。
空欄が残ってしまう欄は、どうすればよいですか。 空欄は、その部分の検討がまだ足りないサインだと考えられます。無理に埋めるより、もとになる調べや考えに立ち返って中身を固めるほうが近道です。埋まらない欄こそ、詰め切れていない部分を教えてくれています。
見通しの数字は、大きく書いたほうが有利ですか。 逆になりやすいと考えられます。根拠のない大きな数字は、かえって信用しにくいものです。単価や人数を積み上げて、なぜその金額になるかを説明できる控えめな数字のほうが、計画としては信頼されやすくなります。
正式な様式や記入要領は、どこで確認できますか。 日本政策金融公庫の公式ページで確認できます。様式や記入要領は変わることがあるため、実際に申し込む際は最新のものを公式で確かめることをおすすめします。この記事は一般的な考え方の説明にとどめています。
まとめ
創業計画書は、おおむね「動機・経歴・商品/サービス・取引先/販売先・必要な資金と調達・事業の見通し」といった塊で問われます。一つずつは難しい問いではなく、事業を説明するうえで欠かせないことばかりです。
書くときのコツは、欄をまたいで筋を通すことです。動機は思いつきでなく経歴とつなげる。見通しは願望でなく、単価×人数のような積み上げの根拠を添える。資金は「何にいくら必要で、どこから出すか」を左右で噛み合わせる。この記事では架空のパン教室を例に、仮の数字でその形を見てきました。
そして、最初から完璧を目指す必要はありません。まず全欄を一度埋めてみて、空欄や弱いところを、あとから調べ直して固めていく。書く作業と中身を深める作業を行き来しながら、身の丈で通る一枚に仕上げていってください。
なお、実際の様式や記入要領は変わることがあります。申し込む際は、日本政策金融公庫の公式ページ(日本政策金融公庫)で最新のものを確認してください。
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