時間をかけて事業計画書を書いたのに、読んだ相手にいまひとつ伝わらない。そんなことが起きるのは、多くの場合、内容そのものより「書き方」に原因があります。
事業計画書は、頭のなかにある事業の姿を、知らない人にも分かる形にして手渡す書類です。融資の担当者も、力を貸してくれる協力者も、あなたの事業をまだ知りません。同じ中身でも、書き方しだいで伝わることもあれば、まったく届かないこともあります。
この記事では、項目の一覧や数値計画そのものではなく、「どう書けば伝わるか」という表現と進め方のコツに絞って解説します。何をどの順に並べるかという構成は事業計画書の構成、売上や資金の数字の立て方は数値計画の立て方で扱うので、この記事は書き方の部分に集中します。
この記事の要点
- 事業計画書は、あなたの事業を知らない人に手渡す書類です。読み手を意識して、専門用語を避け、知らない人に伝わる言葉で書くことが出発点になります。
- 伝わる計画書には共通する原則があります。読み手を意識する・具体的に書く・数字に根拠を添える・全体で一貫させる・簡潔にまとめる、の5つです。
- いきなり清書しようとすると手が止まります。まず各項目の要点を箇条書きで出し、それを短い文でつなぐ順で進めると書きやすくなります。
- 書けない項目は、文章力ではなく調べや考えが足りないサインです。各項目の中身は、これまでの検討(コンセプト・USP・市場調査・ビジネスモデル)に立ち返って深めれば埋まります。
そもそも、誰に向けて書く書類か
書き方のコツに入る前に、事業計画書が「誰に向けた書類か」を押さえておくと、以降の話がつながります。
事業計画書は、自分のためのメモではありません。融資を申し込む金融機関の担当者、いっしょに動いてくれる協力者や取引先など、あなたの事業をまだ知らない相手に読んでもらうための書類です。
読む相手は、あなたが当たり前だと思っている業界の事情も、頭のなかにある事業のイメージも共有していません。自分にとって説明するまでもないことほど、相手には伝わっていない、という前提で書くことになります。この記事で扱うコツは、すべて「知らない人に伝える」というこの一点から出てきています。
伝わる事業計画書、5つの書き方の原則
伝わる計画書には、共通する書き方の原則があります。ここでは5つに整理します。特別な文章力は必要なく、意識するだけで届き方が変わるものばかりです。
1. 読み手を意識する
最初の原則は、読む人を思い浮かべて書くことです。融資担当者も協力者も、あなたの事業を知りません。業界内では通じる略語や専門用語も、相手には通じないことがあります。
知らない人に説明するつもりで、専門用語はかみくだくか、ひとこと補う。「その業界の人でなくても分かるか」を基準にすると、独りよがりな説明を避けられます。
2. 具体的に書く
「頑張ります」「精一杯やります」といった意気込みは、計画書ではほとんど情報になりません。伝わるのは、具体的な中身のほうです。
「集客を頑張る」ではなく「誰に・どんな方法で・何件」まで書く。たとえば「近隣の子育て世帯に、チラシとSNSで告知し、月に10件の予約を見込む」のように書けば、読み手はやることの中身を思い浮かべられます。抽象的な言葉を、具体的な行動と数に置きかえるのがコツです。
3. 数字に根拠を添える
計画書には数字が出てきますが、数字だけを置いても説得力は生まれません。大事なのは、なぜその数字になるのかという根拠です。
たとえば「月商30万円を見込む」とだけ書くと、願望なのか裏づけがあるのか判断できません。「単価3,000円 × 月20人 × 継続分の積み上げで、おおよそ月30万円」のように、計算の道すじを添えると、同じ数字でも意味が変わります。数字は、願望ではなく、なぜそうなるかの理由とセットにして書きます。
4. 全体で一貫させる
各項目が、たがいに矛盾しないことも大切です。ターゲットと商品と数字が、ひとつの筋でつながっているかを確かめます。
たとえば、ターゲットを「価格を抑えたい層」と書きながら、商品説明では高価格帯の付加価値をうたい、売上予測は高単価で計算している。こうしたずれがあると、どれか一つが本当なのか読み手は迷います。誰に・何を・いくらで、が全体で噛み合っているかを、書き終えたあとに通しで見直します。
5. 簡潔にまとめる
長く書けば伝わる、というものではありません。むしろ、要点がどこにあるか分からなくなると逆効果です。
分量より、要点が過不足なく伝わることを優先します。同じことの繰り返しや、事業と関係の薄い説明は削る。読み手が知りたいのは「この事業はうまくいきそうか」であって、こちらの語りたいことすべてではありません。中身を残して、無駄を削る意識が、結果として伝わる分量に近づけます。
| 原則 | やりがちなこと | 伝わる書き方 |
|---|---|---|
| 読み手を意識する | 業界用語のまま書く | 知らない人に伝わる言葉に直す |
| 具体的に書く | 「頑張ります」で終える | 誰に・いくらで・何件、と書く |
| 数字に根拠を添える | 数字だけを置く | なぜその数字かの理由を添える |
| 全体で一貫させる | 項目ごとにばらばら | ターゲット・商品・数字を噛み合わせる |
| 簡潔にまとめる | 長さで安心する | 要点を残して無駄を削る |
いきなり清書しない、書き進め方の順序
書き方の原則が分かっても、真っ白なページにいきなり完成文を書こうとすると、たいてい手が止まります。進め方にもコツがあります。
おすすめは、清書を最後に回すことです。まず各項目について、伝えたい要点を箇条書きで書き出します。文章の形は気にせず、単語や短いメモで構いません。事業の中身・誰に売るか・どう売るか・いくら見込むか、といった塊ごとに、思いついたことを並べていきます。
要点がひととおり出そろってから、それを短い文でつないでいきます。この順にすると、「何を書くか」と「どう書くか」を分けて考えられるので、一気に清書するより格段に楽になります。並べた箇条書きを見て、順番を入れかえたり足りない点を補ったりもしやすくなります。
そして進めるなかで、うまく書けない項目が出てきたら、それは大事なサインです。文章がまとまらないのは、多くの場合、文章力の問題ではありません。書けないのは、その部分の調べや考えが足りないサインだと考えると、対処が変わります。
たとえば「競合との違い」がどうしても書けないなら、まだ競合を十分に調べていないか、自分の違いを言葉にできていない、ということです。無理にそれらしい文章をひねり出すより、もとになる検討に立ち返るほうが、結局は早く、伝わる計画書になります。埋まらない項目こそ、事業として詰め切れていない部分を教えてくれています。
よくあるつまずきと、その直し方
書き慣れていないうちは、いくつか似たようなつまずき方をしがちです。代表的なものと、直す方向を挙げておきます。
- バラ色すぎる売上予測:右肩上がりの大きな数字は、書いている側は安心でも、読む側はかえって不安になります。うまくいかなかった場合も想定した、控えめで説明できる数字のほうが信頼されます。
- 根拠のない数字:「なんとなくこのくらい」で置いた数字は、理由を尋ねられた瞬間に崩れます。どんなに小さな数字でも、なぜそうなるかを一言添えられる状態にしておきます。数字の立て方そのものは数値計画の立て方で深掘りできます。
- 自分にしか分からない説明:業界の常識や、頭のなかのイメージを前提に書いてしまうと、知らない人には届きません。読んだことのない人に一度目を通してもらうと、伝わらない箇所が見つかります。
- 強みが「品質・丁寧」で止まる:多くの同業も同じことを言うため、それだけでは選ばれる理由になりません。何がどう違うのかまで具体化する考え方はUSP・差別化ガイド、その裏づけになる競合の調べ方は市場・競合調査ガイドで扱っています。
どのつまずきも、「知らない人に伝わるか」「なぜそう言えるのか」という二つの問いに戻ると、直す方向が見えてきます。
各項目の中身は、これまでの検討でつくる
ここまで書き方の話をしてきましたが、計画書そのものは、ゼロから中身をひねり出す作業ではありません。事業計画書は、これまで考えてきたことを1枚にまとめ直す作業だと捉えると、負担が軽くなります。
誰に売るかというターゲット、選ばれる理由であるUSP、市場や競合の状況、どう稼ぐかというビジネスモデル。これらは、それぞれ深く考えるための入口があります。計画書は、その一つひとつを短くまとめて並べ、全体として筋の通った一つの計画に仕上げる場所です。
だからこそ、ある項目が書けないときは、対応する検討に戻れば中身が埋まります。
- 選ばれる理由や強みが薄いと感じたら、USP・差別化ガイドへ
- 市場や競合の見立てが弱いと感じたら、市場・競合調査ガイドへ
- 売上や資金の数字が固まらないなら、数値計画の立て方へ
- どの項目をどう並べるか迷ったら、事業計画書の構成へ
計画書を書く作業と、中身を深める作業を行き来しながら、少しずつ埋めていけば十分です。
なお、日本政策金融公庫の「創業計画書」のように、決まった様式を使う場面もあります。その場合も、書き方の原則は変わりません。様式の各欄を、知らない人に伝わるように、具体的に、根拠を添えて埋めていくことになります。最新の様式や記入要領は、公庫の公式ページ(日本政策金融公庫)で確認してください。
AI時代の応用・次の一歩
事業計画書づくりに、生成AIを役立てることもできます。使いどころを絞れば、書く手間を減らせます。
たとえば、箇条書きで出した要点を渡して「これを、事業を知らない人に伝わる短い文章にして」と頼めば、清書のたたき台が手早く得られます。専門用語が混じった説明を「知らない人に伝わる言葉に直して」と頼んだり、書き上げた計画書を「読み手として分かりにくいところを指摘して」と点検役に使ったりするのも向いています。文章を整える・読みにくさを見つける、といった作業はAIの得意分野です。
いっぽうで、鵜呑みにはできません。AIは、渡していない事業の事情までは知らないので、それらしい数字や、当たりさわりのない売り文句を埋めてくることがあります。そのまま使うと、根拠のない数字や誰にでも当てはまる説明という、この記事で挙げたつまずきに、かえって近づいてしまいます。
数字の根拠や、自分の事業ならではの中身は、最後は自分で確かめて言葉にする。AIには整えることと点検することを任せ、判断はこちらが持つ。この線引きをしておくと、便利に使いつつ伝わる計画書から遠ざからずにすみます。
次の一歩として、まずは各項目の要点を箇条書きで書き出してみてください。そのうえで、並べる順に迷ったら事業計画書の構成、数字を固める段になったら数値計画の立て方へと進めます。
よくある質問
事業計画書は、どのくらいの分量で書けばよいですか。 長さより中身だと考えられます。要点が過不足なく伝わることが目的なので、決まった枚数はありません。読み手が知りたいことに答えているかを基準に、無駄な説明を削って要点を残すほうが伝わりやすくなります。
うまく書けない項目があるときは、どうすればよいですか。 書けないのは、その部分の調べや考えが足りないサインだと考えられます。文章力の問題として片づけず、その項目のもとになる調査や検討に立ち返って、埋まっていない中身を先に固めるほうが近道になります。
売上予測は、多めに書いたほうが印象が良いですか。 逆になりやすいと考えられます。根拠のない大きな数字は、読み手にとってかえって信用しにくいものです。願望ではなく、なぜその数字になるのかを説明できる控えめな予測のほうが、計画としては信頼されやすくなります。
文章を書くのが苦手でも、伝わる計画書は作れますか。 作れると考えられます。伝わる計画書に必要なのは、うまい文章ではなく、具体性と一貫性です。まず要点を箇条書きにして、それを短い文でつなぐだけでも、知らない人に伝わる計画書に近づきます。
まとめ
事業計画書は、あなたの事業を知らない人に手渡す書類です。同じ中身でも、書き方しだいで伝わり方は大きく変わります。
伝わる計画書の原則は5つです。読み手を意識して知らない人に伝わる言葉で書く、意気込みでなく具体的に書く、数字にはなぜその数字かの根拠を添える、ターゲット・商品・数字を全体で一貫させる、長さより要点を優先して簡潔にまとめる。どれも特別な文章力を必要としません。
進め方は、いきなり清書せず、まず要点を箇条書きにしてから短い文でつなぎます。うまく書けない項目は、文章力ではなく調べや考えが足りないサインなので、もとの検討に立ち返って中身を固めます。
計画書は、これまで考えてきたことを1枚にまとめ直す作業です。各項目の中身は、コンセプト・USP・市場調査・ビジネスモデルといったこれまでの検討で深められます。書く作業と中身を深める作業を行き来しながら、身の丈で伝わる一枚に仕上げていってください。
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- 事業計画書の構成 — どの項目をどの順に並べるか知りたい方へ
- 数値計画の立て方 — 売上予測や資金の数字を固めたい方へ
- USP・差別化ガイド — 選ばれる理由を具体化したい方へ
- 市場・競合調査ガイド — 数字や強みの裏づけを調べたい方へ
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