「ペルソナ」を調べると、年齢・性別・住まい・年収・職業・趣味と並んだ記入シートが出てきます。上から順に埋めれば、それらしい人物像はできあがります。ただ、埋め終わったシートを前にして、「で、これをどう使うのか」と手が止まることが少なくありません。
原因は、項目を埋めること自体が目的になってしまう点にあります。ペルソナとは、商品やサービスを届けたい相手を、たった1人の人物として具体的に描いたもの。描く目的は、その人に向けて言葉を選び、提供する内容を決めることです。年齢や年収は、その判断に使えるときだけ意味を持ちます。
この記事では、ペルソナ設計を「属性を埋める作業」ではなく「1人の困りごと・言葉・決め方を描く作業」として進める手順をまとめます。
できあがったペルソナは、当たり外れを競うものではありません。書くときに迷ったら立ち返る、手元の1人です。
この記事の要点
- ペルソナは大勢の平均ではなく、たった1人です。平均を取ると、どこにもいない人物ができあがります。
- 埋めるべきは属性より行動と状況。何に困り、どんな言葉で調べ、何を見て決めるかを描きます。
- 年齢・年収・趣味は、言葉づかいや提供内容を決められるときだけ書けば足ります。
- 使い道は2つ。話しかける言葉を選ぶときと、提供する中身を足し引きするときです。
- 当たっているかより、迷ったときに立ち返れるかどうかで価値が決まります。
ペルソナは大勢の平均ではなく、たった1人
ペルソナは、届けたい相手を1人の人物として具体的に描いたものです。複数の顧客の共通点をならした「平均像」ではありません。ここを取り違えると、作業の方向がまるごとずれます。
平均を取ると、どこにもいない人物ができます。20代と50代の相手がいるから35歳。都心と地方がいるから中規模の都市。独身と既婚がいるから、子どもは1人。こうして生まれた人物は統計上の重心であって、実在の誰にも似ていません。似ていない人物に向けた言葉は、誰の目にも留まらないでしょう。
たった1人に決めると、逆のことが起きます。「小学生の子どもが寝たあと、夜9時から作業を始める人」と決めれば、その時間に読める長さも、その時間に使える道具も、その時間の疲れ方も想像できます。具体的な1人に向けた言葉は、同じ状況にいる人たちに届きます。
なぜ絞るほど届くのか、その原理はターゲット設定とは・なぜ絞るのかで解説しています。
1人に決めても、相手が1人になるわけではない
「1人に決めたら、その1人しか来ないのでは」。絞ることへの不安は、たいていこの形をしています。
実際に起きるのは逆のことです。夜9時から作業する人に向けて書いた文章を読んで、朝5時に作業している人が「これは自分のことだ」と受け取ります。状況が近ければ、細かい属性が違っても自分ごとになるからです。
反対に、誰にでも当てはまるよう角を落とした文章は、誰の状況にも当てはまりません。捨てることで芯が立つ理由は、万人受けを捨てる考え方にまとめています。
テンプレを埋めると、なぜ使えないものができるのか
ペルソナのシートには、たいてい次のような項目が並びます。
- 氏名・年齢・性別
- 居住地・家族構成
- 職業・年収
- 趣味・休日の過ごし方
- 性格
すべて埋まると、人物像ができたように見えます。ただ、この5項目からは「その人がなぜあなたを選ぶのか」がほとんど出てきません。年収500万円の35歳男性という情報は、選ぶ理由にならないからです。
空欄があると、埋めたくなる
項目が並んでいると埋めたくなり、埋まると進んだ気になります。ここが落とし穴です。
空欄を消すために、「趣味はカフェ巡りと読書」といった、それらしいけれど何も決められない情報が入ります。入れたところで、書く言葉も、出す商品も、値段も変わりません。手が動いた実感だけが残り、判断は1つも進んでいない状態になります。
何かを決められる情報だけ書く
書くかどうかの基準は1つ。「この情報があると、何かを決められるか」です。
年齢は、話しかける言葉づかいを決められるなら書く価値があります。家族構成は、使える時間帯や予算の上限を左右するなら意味を持ちます。職業は、相手が知っている前提知識の量を教えてくれるなら役に立ちます。
逆に、何の決めごとにも影響しない項目は、空欄のままで構いません。ペルソナは提出物ではないので、埋まっていなくても誰にも困られません。
行動と状況で描く|ペルソナに書く6つのこと
属性の代わりに書くのは、その人の行動と状況です。次の6つがそろえば、書くときにも売るときにも使えます。
| 描くこと | 立てる問い | 何が決まるか |
|---|---|---|
| 状況 | いま何をしていて、どこがうまくいっていないか | 話しかける入口 |
| 困りごと | 何に困り、放っておくとどうなるか | 提供する中身 |
| 探す言葉 | 困ったとき、何と入力して調べるか | 見出しと説明の言葉 |
| すでに試したこと | 何を試して、なぜやめたか | 言ってはいけない提案 |
| 決め方 | 何を見て、誰の意見を聞いて決めるか | 見せる情報と根拠 |
| 買わない理由 | 迷ったとき、何が引っかかって止まるか | 先回りして解く不安 |
探す言葉は、相手の語彙で書き留める
「ペルソナ設計」と入力して調べる人は、すでにその言葉を知っている人です。本当に困っている当人は、「誰に売ればいいかわからない」「客層 決め方」あたりを打ち込むかもしれません。
同じ困りごとでも、こちらの用語と相手の語彙は一致しません。相手が実際に使う言い回しを書き留めておくと、見出しも、説明文の書き出しも、そのまま決まります。専門用語で書かれた案内が届かないのは、内容が悪いからではなく、相手の語彙で書かれていないからです。
「すでに試したこと」と「買わない理由」を落とさない
この2つは、市販のシートにはあまり載っていません。ただ、ひとりで事業をするなら効いてきます。
すでに試して失敗したことを提案すると、その瞬間に話が終わります。「SNSを毎日更新しましょう」と言われた相手が、すでに半年続けて成果が出ていなかったら、以降の言葉は届かないでしょう。
買わない理由も同じです。値段なのか、時間なのか、まわりの目なのか。止まる場所がわかっていれば、そこに答えを用意できます。わからないまま良さだけを並べても、相手は同じ場所で止まったままです。
仮の設定で1枚書いてみる
以下は仮の設定です。実在の人物や企業ではありません。
| 項目 | 記入例(仮の設定) |
|---|---|
| 状況 | 会社員をしながら、週末に写真の仕事を受け始めて1年。依頼は知人経由で月2件ほど |
| 困りごと | 誰に向けた写真屋なのか説明できず、値段も相手ごとにばらばら。単価が上がらない |
| 探す言葉 | 「カメラマン 単価 上げ方」「フリーランス 写真 集客」 |
| すでに試したこと | 作例をSNSに毎日投稿。フォロワーは増えたが、依頼の数は変わらなかった |
| 決め方 | 同じ立場から先に独立した人の発信を読み、自分にも続けられそうかで決める |
| 買わない理由 | 平日にまとまった時間が取れない。勤務先に知られないかも気になる |
この6行があれば、話しかける言葉も、最初に出す内容も決まります。「カメラマンの単価」を調べている相手に、「ブランディングの大切さ」から話し始めても届きません。「知人経由の月2件を、値段を下げずに増やす」という入口なら、同じ状況の人が足を止めます。
書ける項目から埋めれば十分です。全部そろわないと使えないものではありません。
絞る範囲を決めてから、1人を描く
ペルソナを描く前に、ターゲットの範囲が決まっている必要があります。範囲が「30代女性」のままでは、その中の誰を描くかが決まらないからです。
範囲の絞り方はターゲットの絞り込み方で解説しています。範囲を状況と困りごとで絞ってから、その中の1人を描く。この順番だと、描いた人物が架空の存在になりにくくなります。
描いた1人を、どこで使うか
ペルソナの使い道は2つです。話しかける言葉を選ぶときと、提供する中身を足し引きするときに使います。この2つ以外の使い道は、無理に探さなくて構いません。
言葉を選ぶときの基準にする
文章を書いていて迷ったら、その1人が使う言葉に寄せます。専門用語を出すか、どこまで前提から説明するか、どのくらいの長さにするか。相手が決まっていれば、どれも自然に決まります。
見出しに悩んだときは、書き留めた「探す言葉」をそのまま置いてみてください。相手の頭にある言葉と、こちらの見出しがそろうと、読むかどうかの一瞬の判断を越えられます。
提供する中身を足し引きする基準にする
ひとりで事業をすると、盛り込みすぎが起きます。あれもできる、これも付けられる。そうやって膨らんだ商品は、作るのが重いわりに選ばれにくくなります。
描いた1人がいると、「あの人はこれを求めていない」と言い切れます。求めていない機能を外し、止まる場所に答えを足す。この足し引きが、そのまま商品の形になっていきます。
中身そのものの決め方は、誰に・何を・どのようにの3点設計と提供価値と価値根拠の言語化で解説しています。ペルソナは、その3点の「誰に」を1人の解像度まで下ろしたものにあたります。
使う予定がないなら、作らなくていい
作ること自体に価値があるわけではありません。作って満足し、二度と開かないなら、時間を使っただけです。
書く前に開く。商品を決める前に開く。値段で迷ったときに開く。開く場面があるから、描く意味があります。開く予定がないなら、「誰の、どんな困りごとに答えるか」を1行メモしておくだけでも足ります。
ペルソナを作ったあとに、何が変わるか
変わるのは、迷う回数です。書き出しで止まる時間、商品に機能を足すかどうかで揺れる時間、値段を下げようかと考え込む時間。相手が決まっていると、こうした迷いにその都度の答えが出ます。
もう1つ、外部に任せられる範囲が広がります。文章の下書きをAIに頼むとき、「30代向けに書いて」と伝えても、当たりさわりのない文章しか返ってきません。書き留めた6行をそのまま渡せば、探す言葉も、試して失敗したことも、止まる理由も前提に入ります。頭の中にあるうちは自分しか使えませんが、書き出しておけば、外注先にも、協力者にも、AIにも同じ前提を渡せます。ひとりで手数が足りない事業ほど、この差が効いてきます。
そして、書いた内容は外れます。想定と違う言葉で問い合わせが来る。想定と違う理由で断られる。そのずれこそが、次に直す場所を教えてくれます。当てにいくのではなく、ずれたら直す。この繰り返しが、机上の人物像を、使える1人に育てていきます。
ターゲット設定の全体像から確かめ直したい場合は、ターゲット設定が入口になります。
よくある質問
ペルソナは何人まで作っていいですか。 始めるときは1人にしてください。2人目を作ると、書くときにどちらへ話しかけるか迷い、結局その中間の言葉になります。事業が育って、明らかに状況の違う相手が増えてきたときに、2人目を検討すれば足ります。
ペルソナは想像で作っていいですか。 想像だけで作ると、都合のいい相手ができあがります。過去の顧客、問い合わせの文面、相談された内容など、実際に見聞きしたものを土台にしてください。手がかりが何もないなら、いま最も近い実在の1人を出発点にして、あとから直していく形が現実的です。
年齢や年収は書かなくていいのですか。 書いてはいけないわけではありません。年齢が言葉づかいを決めるなら、年収が価格の上限を決めるなら、書く意味があります。何も決められない項目なら、空欄のままで構いません。
ペルソナとターゲットは何が違いますか。 ターゲットは範囲、ペルソナはその中の1人です。「子育て中に自宅で働きたい人」が範囲で、その範囲にいる具体的な1人を描いたものがペルソナにあたります。範囲を決めてから1人を描く順番になります。
作ったペルソナはいつ見直しますか。 書いた内容と、実際に来た人がずれたときです。問い合わせの言葉が想定と違う、断られる理由が想定と違う。こうしたずれは、ペルソナを直す材料になります。当てにいくものではなく、ずれたら直すものです。
まとめ
ペルソナ設計は、シートの項目を埋める作業ではありません。届けたい相手を、たった1人の人物として具体的に描く作業です。大勢の平均を取ると、どこにもいない人物ができあがり、その人物に向けた言葉は誰にも届きません。
描くのは属性より行動と状況です。いまどんな状況にいて、何に困り、どんな言葉で調べ、何を試して失敗し、何を見て決め、どこで止まるか。この6つがそろえば、話しかける言葉も、提供する中身も決まります。年齢や年収は、それらを決められるときだけ書けば足ります。
使い道は2つ。言葉を選ぶときと、中身を足し引きするときです。開く場面がないなら、1行のメモで構いません。書き出しておけば、外注先にもAIにも同じ前提を渡せます。
そして、描いた1人は外れます。外れたら直してください。当たり外れを競うものではなく、迷ったときに立ち返るための1人です。手元に1人いるかどうかが、ひとりで事業を回すときの迷いの量を変えます。
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