「誰に・何を・どのように」。事業コンセプトはこの3点でできている、という説明はよく見かけます。ただ、3点を並べられても、いざ埋めようとすると手が止まります。「誰に」の欄に「30代の女性」と書いて、そこから先へ進まない。
止まるのは、考えが足りないからではありません。3点を同時に決めようとしているからです。3つは独立した空欄ではなく、前が決まると後ろの候補が減る関係にあります。順番を守れば、埋まります。
この記事では、「誰に・何を・どのように」を1つずつ決める手順と、3点が噛み合っているかを確かめる方法を解説します。
言葉を短く磨く作業は、まだ先です。ここでは、判断の基準として使える粗さで3点を埋めるところまでを守備範囲とします。
この記事の要点
- 3点は同時に考えません。「誰に」から順に決めます。前が決まると、後ろの選択肢が減るからです。
- 「誰に」は属性ではなく、相手が困っている場面で書きます。「30代女性」では、何を売るかが決まりません。
- 「何を」は商品名ではなく、相手が得る結果で書きます。商品は、その結果を届けるための手段です。
- 「どのように」だけは、自分の条件から決めます。続けられない形を選ぶと、コンセプトごと止まります。
- 噛み合っているかは、3点を1文につないで読み、1点ずつ入れ替えてみると分かります。
3点設計の全体像|順番に決めて、最後に噛み合わせる
3点は、並んだ3つの空欄ではありません。「誰に」が決まると「何を」の候補が減り、「何を」が決まると「どのように」の形が限られます。上流から順に決める構造になっています。
| 順番 | 決める点 | 書く内容 | 決め方の起点 |
|---|---|---|---|
| 1つ目 | 誰に | 困っている場面にいる相手 | 相手の状況 |
| 2つ目 | 何を | 相手が得る結果と、その手段 | 1つ目で絞った場面 |
| 3つ目 | どのように | 届け方と、ひとりで続けられる形 | 自分の条件 |
| 4つ目 | 噛み合わせ | 3点が1文でつながるか | 3点の関係 |
同時に考えると、なぜ止まるのか
3点を並行して考えると、動く先が3方向あります。「誰に」を変えれば「何を」が変わり、「何を」を変えれば「どのように」が変わる。どこから手をつけても、ほかの2つが崩れていきます。
順番を決めると、この揺れが止まります。前の決定が制約になって、後ろの候補が減るからです。選択肢が減るから、決められます。「誰に」を1つ選んだ時点で、その人に効かない商品案は自動的に消えます。
粗くていい理由
精度の高い3点を最初から書こうとすると、また止まります。ここで作るのは、迷ったときに開くための粗い設計です。売ってみた反応で直す前提なら、粗さは問題になりません。
決まらないまま考え続けるほうが、事業にとっては重い損失になります。仮の3点を書いて、動かしながら直すほうが早く進みます。コンセプトそのものの定義は事業コンセプトとは何かで解説しています。
「誰に」を決める|属性ではなく、困っている場面で書く
「30代女性」「中小企業の経営者」。属性で書いた「誰に」は、書けた気になるのに、次の「何を」が決まりません。属性からは、その人が何に困っているかが読み取れないからです。
手順1|相手が困っている場面を書き出す
「誰に」を決める作業は、属性を絞り込む作業ではありません。相手が詰まる場面を具体的に書く作業です。
「共働きで、金曜の夜に、週末の献立を考える気力が残っていない」。これなら場面が見えます。年齢も性別も入っていませんが、届ける相手はさきほどより絞れています。
場面には、いつ・どこで・何をしようとして詰まるのかを入れてください。時間帯と状況が入ると、その人が実在する感じが出てきます。逆に、時間帯も状況も書けない相手は、まだ想像の中にいます。
手順2|場面を1つに絞る
書き出した場面は、たいてい複数出ます。全部を残したまま先へ進むと、3点は最後まで噛み合いません。1つに絞ってください。
絞るときの基準は3つあります。自分がその場面を理解できるか。その人はお金を払ってでも解決したいと思っているか。自分の手数で届く範囲にいるか。3つとも当てはまる場面が、最初の1つになります。
絞りすぎを心配しなくてよい理由
市場が小さいことは、ひとりの事業では弱点になりにくいものです。人手が限られる以上、大きな市場を取りにいく手数がそもそもありません。狭い場面で「この人向け」と言い切れるほうが、選ばれる理由になります。
なお、この段階の「誰に」は、3点をつなぐのに足りる粗さで構いません。より深い絞り込みやペルソナの作り方はターゲット設定で解説しています。
「何を」を決める|商品名ではなく、相手が得る結果で書く
「何を」の欄に商品名を書くと、そこで手が止まります。「作り置き宅配」と書いても、相手が何を得るのかは書かれていません。値段の説明も、この欄からは出てきません。
手順1|場面から、相手が得る結果を引き出す
「何を」は、絞った場面の裏返しです。金曜の夜に献立を考える気力がない人が得たい結果は、献立を考えないで済む週末になります。作り置きは、その結果を届けるための手段にすぎません。
結果で書くと、手段を差し替えられます。献立を考えない週末を届ける方法は、宅配だけではありません。献立アプリでも、買い物リストの提供でも成り立ちます。結果を先に決めておくと、手段は後から選べます。
手順2|手段を1つ選ぶ
結果が決まったら、それを届ける手段を1つ選びます。ここではじめて、商品の形が出てきます。
選ぶときは、自分がすでに持っているものから考えてください。経験、道具、人のつながり。ゼロから仕入れて始める形は、ひとりの事業では回りにくくなります。
売るものの案そのものが出てこないなら、組み立てより素材が足りていません。事業アイデアの発想から出し直してください。3点設計は、素材があることを前提にした組み立ての作業です。
「なぜあなたにできるのか」は、この先の話
結果と手段が書けても、相手はまだ信じてくれません。「なぜそれができるのか」が言えていないからです。この価値根拠までセットにする言語化は提供価値と価値根拠の言語化で解説しています。
3点設計の段階では、結果と手段が書けていれば先へ進めます。根拠を先に完璧にしようとすると、3点目にたどり着けません。
「どのように」を決める|自分が続けられる形から決める
3点のうち、「どのように」だけは起点が違います。「誰に」と「何を」は相手から考えますが、「どのように」は自分の条件から考えます。続けられない形を選ぶと、コンセプトごと止まるからです。
| 中身 | 決めること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 届け方 | どんな形で相手に渡すか | 対面/オンライン/宅配/データ納品 |
| 関わり方 | どこまで自分が手を動かすか | 個別に対応/型を決めて反復/仕組みで回す |
| 続け方 | ひとりでさばける量に収まるか | 月に何件まで/1件あたり何時間まで |
手順1|自分の条件を先に書く
使える時間、動ける範囲、任せられる相手がいるかどうか。この条件を書いてから、届け方を選んでください。順番が逆になると、理想の届け方を決めたあとで、それが回らないと気づきます。
ひとりで全部やる前提なら、月にさばける件数には上限があります。上限を先に出しておくと、値付けの下限も見えてきます。月に8件しか回らないなら、1件の値段はそこから逆算するしかありません。
手順2|ほかの届け方と比べる
同じ結果を届けるのに、対面でもオンラインでも成り立つなら、自分の条件に合うほうを選びます。届け方は1つではありません。
ここで同業の形に合わせると、ひとりの手数では回らない選択になりがちです。同業が対面でやっているから対面にする。この決め方には、自分の条件が1つも入っていません。
「どのように」が、前の2点を守る
どのようにが決まると、受けない仕事が決まります。「対面はやらない」と書いてあれば、対面の依頼が来ても迷いません。
断る基準がないと、目の前の依頼を全部受けることになります。すると、せっかく絞った「誰に」も「何を」も、半年で元のぼやけた状態に戻ります。「どのように」は、1点目と2点目を守る枠です。
3点が噛み合っているかを確かめる
3つの欄が埋まっても、それだけでは設計になりません。3点がつながっているかどうかは、別に確かめます。ここを飛ばすと、埋まっているのに使えない3点ができます。
確認1|1文につないで読む
3点を1つの文にしてください。「〇〇な場面にいる人に、△△という結果を、□□という形で届ける」。この型に入れて、声に出して読みます。
「共働きで金曜の夜に献立を考える気力がない人に、献立を考えない週末を、栄養士が設計した1週間分の作り置きの宅配で届ける」。これは通ります。つないだ文が日本語として不自然なら、どこかの点がずれています。
確認2|1点ずつ入れ替えてみる
1文が通ったら、3点のうち1つを別の内容に入れ替えます。入れ替えてもほかの2点が動かないなら、その点は噛み合っていません。
「誰に」を「料理が趣味の人」に入れ替えても「何を」が変わらないとします。その「何を」は、誰に向けても同じものです。つまり、相手を絞った理由がどこにもありません。逆に、1点を動かすと残りが崩れるなら、3点はつながっています。
確認3|否定形が成り立つか
書いた3点を否定してみます。「対面ではやらない」「単品では売らない」。否定した形の事業が現実にありうるなら、その決定には中身があります。
「丁寧に対応する」を否定すると「雑に対応する」になり、そんな事業は存在しません。否定形が成り立たない言葉は、決めたつもりの言葉です。心構えを書いた欄は、いくつ並べても設計になりません。
ずれていたら、後ろから直す
噛み合っていないと分かったら、3点目から直します。「どのように」を変えても通らないなら「何を」を、それでも通らないなら「誰に」まで戻ります。
1点目まで戻ると、後ろの2点は作り直しです。だから時間をかける価値があるのは「誰に」で、逆に「どのように」は何度でも試せます。修正の重さが3点で違うことを、知っておくと戻りやすくなります。
3点が決まると、これからの判断はどう変わるか
3点を埋めても、売上がすぐ動くわけではありません。変わるのは、迷う回数です。
集客の場所は「誰に」の欄が決めます。金曜の夜に困っている人が何を見ているかを考えれば、発信する場所は絞れます。値付けの説明は「何を」の欄から出てきます。相手が得る結果に値段がつくので、作業時間ではなく結果で説明できます。受けるか断るかは「どのように」の欄が答えます。
ひとりで事業を営むなら、この差が効いてきます。判断のたびにゼロから考えていると、決めること自体に時間を取られます。3点が決まっていれば、照らして数秒で答えが出ます。
3点が書けたあとの進み方は、3つあります。もっと具体化したいなら、3点を5W1Hに展開する方法が5W1Hでコンセプトを組み立てるにあります。人に説明できる短さへ磨くなら30秒で説明できるコンセプトにする、手元で使える1枚に落とすならコンセプトシートの作り方が続きです。
書いた3点をAIに読ませて、噛み合っていない点を指摘させる使い方もできます。ただし、入れ替えて崩れるかどうかを最後に決めるのは自分です。事業を続けるのも、断る判断をするのも、書いた本人だからです。
よくある質問
3点のうち、どれから決めるべきですか。 「誰に」からです。相手が決まらないと、何を届けるかも、どう届けるかも決まりません。商品のほうが先に思い浮かんだ場合も、その商品が誰のどんな場面に効くのかを書いてから、3点を並べ直してください。順番を飛ばすと、あとで全部を作り直すことになります。
「誰に」は、どこまで絞ればいいですか。 3点が1文でつながるところまでです。「30代女性」では「何を」が決まらないので、まだ足りません。「共働きで、金曜の夜に週末の献立を考える気力が残っていない人」なら、届ける結果が見えます。属性をいくつ重ねたかではなく、場面が見えるかどうかで確かめてください。
絞りすぎて、お客さんがいなくなりませんか。 ひとりで事業をするなら、必要な件数はもともと多くありません。狭い場面で言い切ったほうが、その場面にいる人からは選ばれやすくなります。ただし、その場面にいる人がお金を払ってでも解決したいと思っているかどうかは、別に確かめてください。
3点を決めれば、売れるようになりますか。 3点設計は、売れるかどうかを当てる作業ではありません。確かめられる形にする作業です。3点が書いてあれば、反応が薄かったときに、相手が違ったのか、届ける結果が違ったのかを切り分けられます。書いていないと、どこを直せばいいのかも分かりません。
3点は、あとから変えてもいいですか。 変えて構いません。ただし「誰に」を変えると、後ろの2点も作り直しになります。売ってみた反応を見て変えるのは自然ですが、思いつきで1点目を動かすと、そのたびに集客の言葉も値付けも組み直すことになります。変えるなら理由を持って変えてください。
まとめ
「誰に・何を・どのように」は、同時に埋める3つの空欄ではありません。「誰に」が決まると「何を」の候補が減り、「何を」が決まると「どのように」の形が限られます。順番に決めるから、決まります。
書き方には、それぞれ型があります。「誰に」は属性ではなく、相手が困っている場面で。「何を」は商品名ではなく、相手が得る結果で。「どのように」だけは相手ではなく、自分が続けられる条件から決めます。
埋めたら、噛み合わせを確かめてください。3点を1文につないで読み、1点ずつ入れ替えて、残りが崩れるかを見ます。崩れないなら、その点はまだ効いていません。否定形が成り立たない言葉も、決めたことになりません。
粗くて構いません。売ってみた反応で直す前提なら、粗い3点のほうが早く動きます。頭の中で完成させようとせず、まず1文につないで、声に出して読んでみてください。
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