「何をされている方ですか」。そう聞かれて、答えに2分かかってしまう。ひとりで事業を営んでいると、この場面は何度も訪れます。経歴も、こだわりも、できることも全部伝えたくなって、気づけば話が長くなっている。
ただ、長くなるのは話し方が下手だからではありません。コンセプトがまだ絞れていないからです。短く言えないものは、たいてい中身が定まっていません。逆に、芯が1つに決まっていれば、説明は放っておいても短くなります。
この記事では、長く書き出した説明から要素を削ぎ落とし、30秒で言える形にするまでの手順を追っていきます。
何を落として何を残すか、削る基準もあわせて示します。30秒という長さは、およそ150字から200字。原稿用紙にすると、半分ほどの分量です。
この記事の要点
- 30秒で説明できないコンセプトは、まだ設計が甘い状態です。短く言えないのは、絞れていない証拠になります。
- 30秒はおよそ150〜200字。長い説明を書き出してから、この長さまで削ります。
- 落とすのは2種類。相手に関係のない情報と、自分が言いたいだけの情報です。
- 残すのは「誰に・何を・どのように」と、相手が確かめられる具体だけ。
- 30秒版は全部を伝える道具ではありません。続きを聞きたいと思ってもらうための入口です。
短く言えないコンセプトは、まだ絞れていない
説明が長くなる原因は、口下手ではなく設計にあります。誰に売るのかが決まっていないから、どの相手にも当てはまるように言葉を足す。何を売るのかが決まっていないから、できることを並べる。その結果、長さだけが増えていきます。
説明が長くなるのは、決めていないものが多いから
コンセプトが1つに絞れていれば、言うべきことは「誰に・何を・どのように」の3つに収まります。決めきれていない部分があると、そこを埋めるために言葉が増える。長さは、絞り込みの甘さがそのまま形になったものです。
たとえば「誰に」が決まっていない人の説明には、「どなたでも」「幅広く」といった言葉が入ります。読めば親切そうですが、聞いた相手は自分に関係があるのか判断できません。だから追加の説明が要る。この繰り返しが、話を2分に伸ばします。
**削れないのは、まだ捨てる決断をしていないからです。**説明を短くする作業は、言葉を縮める作業ではなく、事業の芯を決める作業になります。
30秒はおよそ150〜200字
30秒で話せる分量は、おおよそ150字から200字。原稿用紙の半分ほどです。話す速さで前後しますが、目安としてはこの範囲になります。
短い説明は「エレベーターピッチ」(エレベーターに乗り合わせた程度の短い時間で事業を説明する練習)と呼ばれることもあります。ただ、呼び名はどうでもよく、大事なのは長さの制限です。150字という枠に押し込もうとした瞬間、何を捨てるかを決めざるをえなくなります。制限があるから、決断が起きる。30秒という数字の役割は、そこにあります。
30秒の説明は、キャッチコピーではない
短く言うと聞くと、うまい一言を探し始める人がいます。ただ、30秒の説明とキャッチコピーは役割が違うものです。キャッチコピーは注意を引くための言葉で、30秒の説明は事業の中身を伝えるための言葉。ここを混ぜると、印象的だけれど何をしているのか分からない説明ができあがります。
30秒版に求められるのは、うまさではなく正確さです。この2つの違いはコンセプトとテーマ・キャッチコピーの違いで解説しています。
長い説明を30秒に削る|ビフォーアフター
削る作業は、実例で見るのが早道です。ここでは仮の設定として、「地域の小さな飲食店に向けて、ひとりでメニュー写真の撮影を請け負う人」を例にします。実在の事業者ではなく、説明のために置いた設定です。
ビフォー|言いたいことを全部入れた説明
もともと写真が好きで、10年ほど撮り続けてきました。ミラーレスもフィルムも使いますが、最近は自然光での撮影にこだわっています。飲食店のメニュー写真は、自己流で撮られていることが多いように感じます。せっかくおいしい料理なのに、写真で損をしている。そういうお店を見ると、もったいないと思うんです。撮影だけでなく、メニュー表のレイアウトや、SNSでの見せ方の相談にも乗れます。料金は応相談で、まずはお試しの1品からでも大丈夫です。機材はすべて自前で持ち込みますので、お店側で用意していただくものはありません。
読むと、誠実で親切な説明に見えます。嘘も誇張もありません。ただ、聞き終えた相手の頭に残るのは「写真が好きな人」くらいで、頼むかどうかを決める材料は出てきていない。1分近くかけて、判断に必要な情報がほとんど渡っていない状態です。
アフター|30秒で言える形
席数20席までの個人店に向けて、メニュー写真の撮影を請け負っています。自然光だけで撮るので照明機材を持ち込まず、営業前の2時間で終わります。店を閉めずに、メニュー全体の見え方をそろえられます。撮影後の加工と、メニュー表に入れるサイズへの書き出しまで含みます。まずは3品から試せます。
およそ140字。声に出せば30秒に収まります。情報量は減っているのに、頼むかどうかを考える材料は増えました。自分の店が対象なのか、いつ来るのか、何が終わるのか、いくつから試せるのか。相手が知りたい順に並んでいるからです。
何が消えて、何が残ったか
| 消えたもの | なぜ落とせるか |
|---|---|
| 写真歴10年・使っている機材 | 頼むかどうかを決める材料にならない |
| 「もったいない」という思い | 自分が言いたいだけで、相手の得にならない |
| メニュー表・SNSの相談も可 | 芯がぼやける。聞かれてから足せばよい |
| 料金は応相談 | 何も決まっていないのと同じ |
| お試し1品からでも大丈夫 | 3品という具体に置き換えた |
| 残ったもの | 役割 |
|---|---|
| 席数20席までの個人店 | 誰に |
| メニュー写真の撮影 | 何を |
| 自然光だけ・営業前の2時間 | どのように |
| 店を閉めずに済む | 相手の得 |
| 3品から試せる | 相手が次にできること |
**消えたものの多くは、自分の話です。**残ったものは、すべて相手の側から見た情報でした。この置き換えが、削る作業の中身になります。
削る基準|落とす2種類の情報
何を削るか迷ったら、2つの問いに通してください。相手に関係があるか。自分が言いたいだけではないか。どちらかで引っかかった要素は、30秒版に入れません。
相手に関係のない情報を落とす
経歴、資格、使っている道具、作業の工程。こうした情報は、自分にとっては大事な蓄積です。ただ、聞いた相手が「だから自分にどういいのか」を自力で翻訳しなければならないなら、30秒版には重すぎます。
判断のしかたは単純です。その一文を消して、相手が困るかどうか。困らないなら落とします。写真歴10年が消えても、店主は撮影を頼めます。だから落とせる。
経歴が価値の裏づけになる事業もあります。その場合は経歴そのものではなく、「だから何ができるか」に翻訳して残してください。裏づけの言語化は提供価値と価値根拠の言語化で解説しています。
自分が言いたいだけの情報を落とす
削りにくいのは、こちらです。事業を始めたきっかけ、業界への問題意識、大事にしている姿勢。思い入れがある要素ほど、手が止まります。
ただ、30秒しかない場では、思いは相手の得に変換されないと届きません。「もったいないと思う」は自分の感情で、「店を閉めずに済む」は相手の得。同じ事業を語っていても、後者だけが判断の材料になります。
**思いを捨てろという話ではありません。**30秒版から外すだけです。関心を持った相手は必ず理由を聞いてきます。そのときに話せば、押しつけではなく答えになります。
残すのは「誰に・何を・どのように」と、確かめられる具体
削り終えて残すのは、コンセプトの3点と、相手が事実として確かめられる具体だけです。「20席まで」「営業前の2時間」「3品から」。数字や条件が入ると、相手は自分の状況と照らし合わせられます。
逆に「幅広く」「柔軟に」「丁寧に」といった言葉は、確かめようがありません。誰も反対しないかわりに、誰の判断も動かさない。3点の決め方そのものは「誰に・何を・どのように」の3点設計で解説しています。
30秒版に磨く4つの手順
削る作業には順番があります。いきなり短く書こうとすると、抽象的で当たり障りのない一文ができるだけです。長く書いてから削る。この順を守ってください。
手順1|長さを気にせず、言いたいことを全部書き出す
400字でも1000字でもかまいません。事業について言いたいことを、思いつく限り書き出します。整った文章にする必要はなく、箇条書きでも大丈夫です。
この段階で短くしようとしないのが肝心です。頭の中にあるものを全部出さないと、何を捨てているのか自分で分からなくなります。
手順2|一文ずつ、相手に関係があるかで仕分ける
書き出した文を1つずつ見て、印をつけます。相手の判断に関係するものに丸、自分が言いたいだけのものにバツ、どちらとも言えないものに三角。
三角は、いったんバツ側に寄せてください。迷う要素は、たいてい30秒には重い。惜しいと感じたものは、別のところに書き留めておけば消えません。
手順3|「誰に・何を・どのように」の順に並べ替える
丸をつけた要素を、この順に並べます。誰に向けた事業か。何を渡すのか。どうやって渡すのか。最後に、相手が次にできることを1つ足します。
順番には理由があります。相手はまず「自分に関係あるか」を判断し、そこで関係ないと分かれば、以降を聞きません。だから対象を最初に置きます。
手順4|声に出して、時間を測る
書いたら、必ず声に出してください。黙読では気づかない冗長さが、口に出すと分かります。秒数も測ります。30秒を超えたら、また手順2に戻って削る。
この往復を3回ほど回すと、たいていは形になります。**逆に、何度削っても30秒に入らないなら、文章ではなくコンセプトの側に問題があります。**そのときは絞り込みからやり直してください。絞り方はターゲット設定で解説しています。
30秒で言えるようになると、何が変わるか
30秒版ができると、変わるのは自己紹介だけではありません。プロフィール文、問い合わせへの返信の書き出し、名刺の裏、SNSの説明欄、提案書の1行目。これまで場面ごとに書き直していたものが、1つの芯から派生する形になります。書く手間が減るだけでなく、どこで出会っても同じことを言っている状態が作れます。
断る判断も速くなります。「20席までの個人店」と決めていれば、そこから外れた依頼が来たときに迷いません。ひとりで事業を回すなら、受ける仕事より断る仕事の選び方のほうが効いてきます。値付けも同じで、何を渡すのかが1行で言えないうちは、その値段が高いのか安いのかも説明できません。
ここまで磨いた150字は、頭の中に置いたままだと消えていきます。次の一歩は、1枚の紙に落とすことです。コンセプトシートの作り方で、集客や値付けの判断基準として使える形にまとめてください。
よくある質問
30秒は文字数でいうとどのくらいですか。 およそ150字から200字です。原稿用紙の半分ほど。話す速さで前後しますが、この範囲に収まらないなら、まだ削る余地があると考えてください。
短くすると、情報が足りなくなりませんか。 30秒版は、全部を伝えるための道具ではありません。続きを聞きたいと思ってもらうための入口です。相手が興味を持てば質問が返ってくるので、細かい話はそのときに足せば足ります。むしろ最初に全部渡すと、相手は選別に疲れて何も残りません。
30秒の説明とキャッチコピーは同じものですか。 別物です。キャッチコピーは注意を引くための一言で、30秒の説明は「誰に・何を・どのように」を相手に伝わる形で言うもの。役割が違うので、混ぜると両方とも中途半端になります。詳しくはコンセプトとテーマ・キャッチコピーの違いを参照してください。
削ると、同業と似たような説明になってしまいます。 削って残ったものが同業と同じなら、絞り込みか提供価値のどちらかが足りていません。説明の言い回しではなく、コンセプトそのものに戻って考え直してください。
相手によって説明を変えてもいいですか。 言葉の細かさは変えてかまいません。ただし芯は1つです。相手ごとに「誰に・何を」まで変わるなら、それは絞れていない状態です。
まとめ
30秒で説明できないコンセプトは、まだ設計が甘い状態にあります。長さは話し方の問題ではなく、決めきれていない部分の量がそのまま出たものだからです。
作業の順番は、長く書いてから削る。いきなり短くしようとすると、当たり障りのない一文ができるだけです。書き出し、仕分け、並べ替え、声に出して測る。この往復で、およそ150字まで持っていきます。
落とすのは、相手に関係のない情報と、自分が言いたいだけの情報。残すのは「誰に・何を・どのように」と、相手が確かめられる具体だけです。思いを捨てるのではなく、30秒版から外して、聞かれたときのために取っておきます。
何度削っても30秒に入らないなら、直すべきは文章ではありません。コンセプトの絞り込みに戻ってください。
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- コンセプトシートの作り方 — 磨いた150字を1枚に落として使いたい方へ
- ターゲット設定 — 削っても短くならず、絞り込みから見直したい方へ
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