まじめに働いて売上も立っているのに、月末に手元を見ると思ったほど残っていない。その原因のひとつは、いくら残したいかを先に決めずに、売れた結果として残った額をそのまま受け取っているからです。
これを逆にするのが利益計画です。先に「暮らしと事業にいくら必要か」という目標の利益を置き、そこから逆算して、必要な売上と費用を組み立てていきます。順番をひっくり返すだけで、いくら売れば足りるのかがはっきりし、値付けや働き方の判断も落ち着いてきます。
この記事では、目標利益を置く、費用を足して必要な売上を出す、その売上を価格×数量に分解する、損益分岐点と照らして確かめる、という4つの手順を、仮の計算例で順にたどります。原価・粗利率(原価・粗利率の計算)、損益分岐点(損益分岐点の計算)、値付けの下限(値付けの計算)と、この枝でこれまで計算してきた数字を、ひとつの計画にまとめる締めくくりにあたります。
なお、価格や利益をどう設計するかという戦略・意思決定の側は売上・利益の方程式にゆずり、この記事は日々の経営のために自分の数字で計画を立てる実務の手順に絞ります。融資や許認可に向けた事業計画書のなかの数値計画は、事業計画書の数値計画が担当します。
この記事の要点
- 利益計画は、売上を先に決めるのではなく、必要な利益を先に置いて、そこから売上と費用を逆算する計画です。順番を変えるだけで、いくら売れば足りるのかがはっきりします。
- 手順は4つです。目標利益を置く → 費用を足して必要な売上を出す → その売上を価格×数量に分解する → 損益分岐点と照らして無理がないか確かめる、という流れで組み立てます。
- 必要な売上は、目標利益と固定費を足したものを粗利率で割って出します。売上=(目標利益+固定費)÷粗利率という関係です。仮の数字を当てはめれば、電卓ひとつで見当がつきます。
- 扱う商品が複数あるなら、1件の粗利を自分の実作業時間で割った時間あたり粗利で並べると、金額だけでは見えない時間の採算で優先順位を比べられます。時給を仮に置かなくても、算出済みの粗利と実測した時間だけで出せます。
- 計画は立てて終わりではなく、毎月、実績と照らして見直すものです。計画と実際のずれを見て、翌月の価格・数量・費用を調整していきます。
利益計画とは、必要な利益から逆算して売上と費用を決める計画
利益計画とは、目標とする利益を先に決めて、その利益を残すために必要な売上と費用を逆算していく計画のことです。
ふだん、売上をどんぶり勘定で追っていると、「たくさん売れたら、そのぶん残るはず」という感覚になりがちです。ところが実際には、売上が増えても、そのぶん原価や経費も増えるため、手元に残る額は売上の大きさとは別に決まります。だからこそ、残したい額を先に置いて、そこから逆算するのが利益計画の考え方です。
順番にすると、次のようになります。
- 目標利益を置く … 暮らしと事業に、毎月いくら残したいかを決める
- 費用を足して必要な売上を出す … 目標利益に固定費を足し、粗利率で割って必要な売上を求める
- 価格×数量に分解する … その売上を、自分の商品の単価と数量に割り振って、現実に売れる量かを確かめる
- 損益分岐点と照らす … 最低ラインと比べて、計画に無理がないかを確かめる
売上を先に決めてしまうと、残る利益は最後まで成り行き任せになります。利益を先に決めると、そのために何をどれだけ売ればよいかが、逆算で具体的になっていきます。以下、ひとつずつ仮の数字で進めます。ここで使う金額はすべて説明のための仮の数字で、実際の水準は事業によって大きく異なります。
手順①:暮らしと事業に必要な利益(目標利益)を置く
最初に決めるのは、売上ではなく、残したい利益です。これを目標利益と呼びます。
目標利益は、大きく2つを足して考えると置きやすくなります。ひとつは、暮らしに必要な生活費です。ひとり事業では、自分の取り分がそのまま生活費と重なることが多いので、毎月いくら手元に残れば暮らしが回るかを書き出します。もうひとつは、事業を続けるために備えたい額です。将来の設備や、売上が落ちた月に備える蓄え、税や社会保険の支払いに回すお金など、生活費とは別に確保しておきたい分です。
仮に、生活に必要な取り分を月20万円、事業のために備えたい分を月10万円と置いてみます。すると、目標利益は次のようになります。
目標利益 = 生活費 20万円 + 備え 10万円 = 月30万円
この30万円が、この計画で最後に残したい額です。金額はあくまで仮のもので、いくらに置くかは暮らし方や事業の段階によって変わります。ここで大切なのは、「いくらあれば足りるか」を自分で決めて、数字にしておくことです。目標があいまいなままだと、あとの逆算がぼやけてしまいます。
手順②:費用(固定費・変動費)を足して必要な売上を出す
目標利益が決まったら、そこに費用を足して、必要な売上を逆算します。ここで費用を2つに分けて考えるのが要点です。
- 固定費 … 売れても売れなくても毎月かかる費用。家賃、通信費、ツールの月額、保険など。
- 変動費 … 売上に比例して増える費用。仕入れ、材料、外注、売上に応じた手数料など。
変動費は売上に連動するので、先に金額として置くのではなく、率(変動費率)でとらえると計算がすっきりします。売上から変動費を引いて残るのが粗利で、売上に対する粗利の割合が粗利率です。粗利率の出し方は原価・粗利率の計算にまとめています。
仮に、固定費を月20万円、粗利率を60%(変動費率40%)と置きます。目標利益30万円を残すには、まず固定費20万円もまかなう必要があるので、粗利で「目標利益+固定費」をカバーしなければなりません。
必要な粗利 = 目標利益 30万円 + 固定費 20万円 = 50万円
この50万円の粗利を、粗利率60%で稼ぐには、いくらの売上が要るか。粗利率で割り戻します。
必要な売上 = 必要な粗利 50万円 ÷ 粗利率 0.6 = 約83万円
つまり、月に約83万円を売り上げれば、変動費と固定費をまかなったうえで、目標の30万円が残る計算になります。式にまとめると、必要な売上 =(目標利益 + 固定費)÷ 粗利率という関係です。これが利益計画の中心にある式です。
| 項目 | 計算 | 金額(仮) |
|---|---|---|
| 目標利益 | 生活費20万+備え10万 | 30万円 |
| 固定費 | — | 20万円 |
| 必要な粗利 | 30万+20万 | 50万円 |
| 粗利率 | — | 60% |
| 必要な売上 | 50万 ÷ 0.6 | 約83万円 |
手順③:必要な売上を価格×数量に分解して現実的か検討する
必要な売上が約83万円と出ました。ただ、金額だけでは「本当に売れるのか」が見えません。そこで、売上を価格×数量に分解して、地に足のついた計画かどうかを確かめます。
売上は、単価と数量の掛け算でできています。仮に、主力サービスの単価を5万円とすると、必要な件数は次のようになります。
必要な数量 = 必要な売上 83万円 ÷ 単価 5万円 = 約17件/月
月17件は、週にならすと4件ほどです。この件数を、いまの体力と時間でこなせるかを考えます。ひとりで動ける範囲を超えていれば、計画に無理があるサインです。そのときは、単価を上げて必要な件数を減らす、粗利率を上げて必要な売上そのものを下げる、目標利益を見直す、といった調整をします。
たとえば単価を5万円から6万円に上げられれば、必要な件数は約14件(83万÷6万)に減り、週3件強で届きます。単価を動かせるかどうかは値付けの検討になり、原価と目標利益から下限を数字で押さえる手順は値付けの計算にまとめています。
このように、価格・数量・粗利率・目標利益は、どれかを動かすと他が連動します。ひとつの正解を探すというより、いくつか組み合わせを試して、自分が続けられる形に寄せていく作業です。数字を並べておくと、「値上げすれば件数を減らせる」「件数が難しいなら備えの分を一度削る」といった選択が、感覚ではなく数字で比べられるようになります。
手順④:損益分岐点と照らして無理がないか確認する
最後に、立てた計画を損益分岐点と照らして、余裕があるかを確かめます。損益分岐点は、利益がちょうどゼロになる売上、つまり赤字にならない最低ラインです。
損益分岐点は、固定費を粗利率で割って求めます。計算の手順は損益分岐点の計算に譲りますが、この例では次のようになります。
損益分岐点の売上 = 固定費 20万円 ÷ 粗利率 0.6 = 約33万円
必要な売上83万円は、この最低ライン33万円をしっかり上回っています。差の約50万円ぶんが、目標利益を生むための余裕にあたります。計画上の売上が損益分岐点にぎりぎり近いと、少し売上が落ちただけで赤字に沈むため、計画としては心もとない状態です。この例のように分岐点から距離があれば、多少の変動があっても持ちこたえられる計画だと読めます。
もし逆に、必要な売上が現実に届きそうにない水準で、しかも損益分岐点にも近いようなら、費用の作り(固定費)そのものを軽くする、粗利率を上げる、といった根本の見直しに戻ります。損益分岐点は、計画が「攻めすぎ」でも「守りきれていない」でもないかを最後に点検する、物差しの役割を果たします。
時間あたり粗利で、商品ごとの採算を比べる
手順③では、必要な件数を自分の時間でこなせるかを見ました。ひとり事業では、この自分の作業時間こそが動かせない上限になります。一日の時間は増やせず、その1件に手が取られている間は、ほかの仕事は進みません。だからこそ、1件でいくら残るか(粗利)だけでなく、その1件に自分の時間をどれだけ使ったかまで合わせて見ておくと、採算の見え方が変わります。自分の時間が主な原価になりやすいというひとり事業の特徴は、粗利・原価率の設計でも触れています。
これを1件あたりの数字にしたものが、時間あたり粗利です。計算はひと手間で、すでに出してある1件の粗利を、その1件にかかった自分の実作業時間で割るだけです。
時間あたり粗利 = 1件の粗利 ÷ その1件にかかった自分の実作業時間
1件の粗利は、売上から原価を引いた数字で、原価・粗利率の計算で出したものをそのまま使えます。実作業時間は、その1件のために実際に動いた時間を自分で測ります。見積もりや打ち合わせ、制作、修正のやりとり、納品後の事務まで、その仕事に取られた時間をひととおり含めると、実態に近づきます。ここで時給をいくらと仮に置く必要はありません。すでにある粗利を、実測した時間で割れば、その仕事が自分の1時間からどれだけの粗利を生んでいるかが出ます。
扱う商品やサービスが複数あるなら、この数字を並べると採算の差が見えてきます。商品ごとに、1件の粗利(売上−原価)を出し、1件の実作業時間を測り、粗利を時間で割る。出てきた時間あたり粗利を横に並べて、高い商品と低い商品を見比べます。
ここで気づきやすいのが、1件の粗利が大きい商品が、時間あたりで見ると必ずしも有利とは限らない、ということです。たとえば、商品Aの1件の粗利が商品Bの2倍あっても、商品Aに商品Bの3倍の時間がかかっているなら、時間あたり粗利は商品Bのほうが大きくなります。粗利の額だけを並べると商品Aが良く見えても、自分の時間で割ると順位が入れ替わる、という場面です。手が回らないのに手元が薄い、と感じるときは、この時間あたりの目減りが起きていることがあります。
手順③で、どの商品に力を寄せるかを考えるとき、時間あたり粗利は、金額だけでは見えない採算を時間の面から照らす物差しになります。この数字が高い商品に時間を寄せれば、同じ自分の時間から、より多くの粗利を残しやすくなります。ただし、これが高い順にそのまま優先、と決めつけるのは早計です。集客のしやすさやリピートの有無、続けやすさや体への負担など、数字に出ない事情も重なります。時間あたり粗利は、それらと合わせて見る出発点であって、これひとつで並び順が決まるわけではありません。
立てた計画は、実績と照らして毎月見直す
利益計画は、立てた時点で完成するものではありません。むしろ、立ててからが本番です。計画はあくまで見通しなので、実際にやってみると必ずずれます。そのずれを毎月見て、計画を育てていきます。
やり方は難しくありません。月末に、計画で置いた売上・費用・利益と、実際の数字を並べます。売上が計画より少なければ、価格が想定より低かったのか、件数が届かなかったのか、どちらのずれかを見ます。利益が薄ければ、変動費や固定費が計画より膨らんでいないかを確かめます。原因の見当がついたら、翌月の計画の数字を、その実感に合わせて調整します。
| 項目 | 計画(仮) | 実績(仮) | ずれ |
|---|---|---|---|
| 売上 | 83万円 | 72万円 | −11万円 |
| 件数 | 17件 | 15件 | −2件 |
| 利益 | 30万円 | 22万円 | −8万円 |
たとえばこの仮の例では、件数が2件届かず、売上と利益が計画を下回っています。ここで分かるのは「値付けではなく件数が課題」ということです。翌月は集客を厚くするか、目標件数を現実的な水準に置き直すか、という次の一手が見えてきます。ずれること自体は失敗ではなく、計画をより自分の実態に近づけるための材料になります。
なお、利益が計画どおり出ていても、手元の現金が足りなくなることはあります。利益と現金は別物で、入金と支払いのタイミングのずれから資金不足が起きるためです。この現金の出入りの計画は、利益計画とは切り離して資金繰り表で計画します。あわせて用意しておくと、計画の安心感が増します。
AI時代の応用・次の一歩
利益計画は式が決まっているので、生成AIを試算の相棒にすると、逆算や組み合わせの検討がはやくなります。
たとえば「目標利益30万円、固定費20万円、粗利率60%のとき、必要な売上はいくらか」と前提を渡せば、(目標利益+固定費)÷粗利率の計算を即座に返してくれます。さらに「単価を5万円から6万円に上げると必要な件数はどう変わるか」「粗利率を65%に改善できたら必要な売上はいくら下がるか」といった、条件を変えた試算を並べてもらうと、手順③の組み合わせ検討が一気に進みます。毎月の見直しでも、計画と実績の数字を渡して「どこがどれだけずれたか整理して」と頼めば、ずれの内訳を素早く見える形にできます。
ただし、AIが出すのは、渡した前提の上での計算にすぎません。目標利益をいくらに置くか、その件数を本当にこなせるか、単価を上げて相手が離れないか——こうした判断は、自分の暮らしと現場の感覚でしか決められません。計算はAIに任せ、前提を決めることと、出てきた数字を採るかどうかの最終判断は自分の側に置く。そう分けておくと、数字に振り回されずに使えます。
次の一歩として、まずは目標利益をひとつ、仮でよいので置いてみてください。そこに固定費を足し、粗利率で割って必要な売上を出し、単価で割って件数に落とす。この記事の4手順を、自分の数字で一度通してみると、計画は驚くほど具体的になります。
よくある質問
利益計画は、売上を先に決めるのではないのですか。 この記事で示す立て方では、売上ではなく必要な利益を先に置きます。暮らしと事業に必要な利益を先に決め、そこに費用を足して必要な売上を逆算する順にすると、いくら売れば足りるのかがはっきりします。売上を先に決めると、残る利益は成り行き任せになりがちです。
目標利益は、どうやって決めればよいですか。 一般には、暮らしに必要な生活費と、事業を続けるために備えたい額を足して置くのが出発点になります。ひとり事業では自分の取り分が生活費とほぼ重なるため、まず毎月いくら手元に残したいかを書き出すと、目標利益の見当がつきやすくなります。
計画どおりにいかないときは、どうすればよいですか。 計画は一度立てて終わりではなく、実績と照らして見直す前提のものです。毎月、計画と実際の売上・費用を並べてずれを確かめ、価格・数量・費用のどこがずれたのかを見て、翌月の計画を調整していきます。ずれること自体は失敗ではなく、計画を育てる材料になります。
粗利の大きい商品を優先して売ればよいですか。 粗利の額が大きくても、その1件に自分の時間を多く使っていれば、時間あたりで見ると採算が薄いことがあります。1件の粗利を、その1件にかかった自分の実作業時間で割った時間あたり粗利を商品ごとに並べると、金額だけでは見えない優先順位が見えてきます。時給を仮に置く必要はなく、算出済みの粗利と実測した時間だけで出せます。
利益計画があれば、お金は回りますか。 利益が出ることと、手元の現金が回ることは別の話です。利益計画は「もうけ」の計画で、入金と支払いのタイミングのずれから起きる資金不足は別に備える必要があります。現金の出入りの計画は資金繰り表がになうため、利益計画とあわせて用意しておくと安心です。
まとめ
利益計画は、売上を先に決めるのではなく、必要な利益を先に置いて、そこから売上と費用を逆算する計画です。順番を変えるだけで、いくら売れば足りるのかがはっきりし、値付けや働き方の判断も落ち着きます。
手順は4つです。まず暮らしと事業に必要な目標利益を置き、次に固定費を足して粗利率で割り、必要な売上を出します(売上=(目標利益+固定費)÷粗利率)。その売上を価格×数量に分解して現実に売れる量かを確かめ、最後に損益分岐点と照らして無理がないかを点検します。仮の数字で言えば、目標利益30万円・固定費20万円・粗利率60%なら、必要な売上は約83万円、単価5万円なら月17件ほど、という具合に、電卓ひとつで見当がつきます。扱う商品が複数あるなら、1件の粗利を自分の実作業時間で割った時間あたり粗利で並べると、金額だけでは見えない時間の採算で優先順位を比べられます。
そして、計画は立てて終わりではありません。毎月、実績と並べてずれを確かめ、翌月の数字を調整していくことで、計画は自分の実態に近づいていきます。必要な利益から逆算する数字の計画を一本持っておくと、どんぶり勘定の不安から抜け出し、値付けも働き方も落ち着いてきます。
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