がんばって働いているのに、思ったほど手元にお金が残らない。その理由を数字でつかむ第一歩が、原価と粗利の計算です。売れた金額のうち、どれだけが仕入れや材料に消えて、どれだけが自分の手元に残ったのか。これは、いちど計算してみれば、はっきりと見えてきます。
数字が苦手だと身構えてしまうかもしれませんが、使うのは引き算と割り算だけです。売上から原価を引いて粗利を出し、その粗利を売上で割れば粗利率が出ます。式そのものは単純で、一度手を動かせば難しくありません。
この記事は、粗利率を「実際に計算する手順」に絞って進めます。粗利率をどの水準に設計するか、率で事業を捉えるという戦略の話は粗利・原価率の設計にまとめてあるので、考え方の側はそちらにゆずります。ここでは、原価に何を含めるかを決め、自分の帳簿の数字を当てはめて、自分の粗利率を出すところまでを順にたどります。
なお、粗利と利益はどう違うのか、利益にはどんな段階があるのかという全体像は粗利・利益の基本にあります。この記事は、そのうち「原価と粗利を自分で計算する」部分の手順書にあたります。
この記事の要点
- 原価とは、その売上を上げるために直接かかったコストのことです。仕入れや材料、外注費などが当てはまり、売れても売れなくてもかかる固定費は原価に含めずに分けて考えます。
- 計算は引き算と割り算だけです。売上−原価=粗利、粗利÷売上=粗利率という2ステップで、自分の粗利率が出せます。
- 原価率と粗利率は、足すと100%になる裏表の関係です。原価率=原価÷売上、粗利率=1−原価率なので、片方が決まればもう片方も決まります。
- 原価は、日々の記帳で原価にあたる費用を分けて記録し、会計ソフトで期間ごとに集計します。業種によって水準は大きく変わるので、平均値ではなく自分の数字で出すのが目安になります。
原価とは、その売上に直接かかったコスト
まず、原価に何を含めるかをはっきりさせます。ここがずれていると、この先の計算がすべてずれてしまうので、最も大事な出発点です。
原価とは、その売上を上げるために直接かかったコストのことです。売上原価とも呼ばれます。ポイントは「その売上に、直接ひもづくか」という一点です。
- 物販・小売 … 売った商品を仕入れた金額(仕入れ原価)。
- ものづくり・ハンドメイド … 作品に使った材料費や部品代。
- 制作・受託 … その案件のために外注した費用や、専用に用意した素材の費用。
いっぽうで、原価に含めないものもあります。事務所の家賃、通信費、会計ソフトの月額、自分の生活費などは、売れても売れなくても毎月かかります。こうした費用は固定費(販売費及び一般管理費)と呼び、原価とは別に分けて考えます。売上に直接ひもづくのが原価、事業を続けるためにかかり続けるのが固定費、という線引きです。
判断に迷ったときは、「この費用は、その1件を売らなかったら発生しなかったか」と問い直すと分かりやすくなります。売らなければ発生しなかったなら原価寄り、売っても売らなくてもかかるなら固定費寄り、という見当がつきます。なお、固定費まで含めていくら残るかという利益の段階については粗利・利益の基本にゆずり、この記事は原価と粗利までに絞ります。
粗利と粗利率を計算してみる(仮の計算例)
原価の範囲が決まったら、あとは計算するだけです。使う式は次の2つです。
- 粗利 = 売上 − 原価
- 粗利率 = 粗利 ÷ 売上
言葉だけだと分かりにくいので、いちど仮の数字で手を動かしてみます。ここで使うのはあくまで説明のための仮の数字で、実在の相場ではありません。ある月の売上が100万円、その売上を上げるためにかかった原価が40万円だったとします。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 売上 | — | 100万円 |
| 原価 | — | 40万円 |
| 粗利 | 100万 − 40万 | 60万円 |
| 粗利率 | 60万 ÷ 100万 | 60% |
まず売上100万円から原価40万円を引いて、粗利が60万円と出ました。次に、その粗利60万円を売上100万円で割ると、0.6、つまり粗利率60%になります。これで「この月は、売上のうち6割が手元に残る作りだった」と読めます。順番は、粗利を出す→売上で割る、の2ステップだけです。
もうひとつ、1件あたりで計算する例も見ておきます。1万5,000円で売っているサービスに、材料や外注で6,000円の原価がかかっているとします。粗利は1万5,000円−6,000円で9,000円、粗利率は9,000円÷1万5,000円で0.6、やはり60%です。月まるごとでも、1件あたりでも、計算の手順はまったく同じです。売上と原価さえそろえば、あとは引いて割るだけ、と押さえておけば十分です。
原価率と粗利率の関係
粗利率とあわせてよく出てくるのが原価率です。この2つはセットで覚えると、片方から片方をすぐに出せて便利です。
- 原価率 = 原価 ÷ 売上
- 粗利率 = 1 − 原価率
原価率は、売上に対して原価がどれだけの割合を占めるかを表します。先ほどの売上100万円・原価40万円の例なら、原価率は40万円÷100万円で40%です。そして粗利率は、この原価率を100%から引いた残りにあたります。原価率40%なら、粗利率は100%−40%で60%。先に計算した粗利率と、ちゃんと一致します。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 原価率 | 40万 ÷ 100万 | 40% |
| 粗利率 | 100% − 40% | 60% |
つまり、原価率と粗利率は足すと必ず100%になる裏表の関係です。どちらか一方を計算すれば、もう一方は引き算だけで出ます。原価率が下がれば粗利率は同じだけ上がる、という関係なので、原価を抑える工夫がそのまま粗利率の改善につながる、という見方もできます。ただし、その率をどこまで狙って設計するかという話は粗利・原価率の設計の範囲なので、ここでは「両者は裏表で、片方から片方が出せる」という計算上の関係だけ押さえておきます。
原価をどう集計するか
計算の式は単純でも、実際に手を動かすと「そもそも原価の金額をどうやって出すのか」でつまずきがちです。ここは、日々の記帳の積み重ねで解いていきます。
基本は、日々の取引を記録するときに、原価にあたる費用(仕入れ・材料費・外注費など)と、そうでない費用(家賃・通信費などの固定費)を、勘定科目で分けて記帳しておくことです。分けて記録してあれば、会計ソフトが期間ごとに合計を出してくれるので、月ごと・年ごとの原価がそのまま集計できます。記帳のときに混ぜてしまうと、あとで原価だけを取り出すのが難しくなるため、分ける習慣が計算のしやすさに効いてきます。
どの費用をどの勘定科目に振り分けるか、経費をどう記録していくかという記帳そのものの実務は、この記事の範囲を超えます。勘定科目の分け方や経費の付け方は経費計上と勘定科目にまとめてあるので、記帳の手元の作業はそちらを参照してください。この記事では、「原価は普段の記帳で分けておき、会計ソフトで集計する」という流れをつかんでおけば十分です。
なお、在庫を持つ物販の場合は、仕入れた金額がそのまま原価になるとは限らず、売れた分だけを原価として計算します。売れ残った在庫は、その期の原価には入れずに次に繰り越す、という考え方です。ここも詳しくは記帳や決算の実務に関わるため、まずは「売れた分に対応する仕入れが原価」という大枠だけ押さえ、細かい処理は経費計上と勘定科目の流れで確認していくと無理がありません。
自分の粗利率を出してみる
式と集計の流れが分かったら、あとは自分の数字を当てはめるだけです。手順を並べると、次のようになります。
- 期間を決める … まずは直近の1か月、あるいは扱っている主力商品ひとつ、というように範囲を区切ります。範囲を絞ったほうが、数字を集めやすくなります。
- 売上を出す … その期間・その商品の売上を合計します。
- 原価を出す … 同じ範囲で、原価にあたる費用(仕入れ・材料・外注など)だけを集計します。固定費は入れません。
- 粗利を計算する … 売上から原価を引きます。これが粗利です。
- 粗利率を計算する … 粗利を売上で割ります。これが粗利率です。
一度この手順を通してみると、「自分の商売は、売上のうちどれくらいが手元に残っているのか」が、実感ではなく数字で見えてきます。大事なのは、他人の平均値や「この業種はこれくらい」という一般論と比べないことです。粗利率は業種によって大きく変わり、同じ業種のなかでも、仕入れ先や作り方によって差が出ます。参考になるのは、自分の過去の数字や、自分の別の商品との比較です。
出てきた率が高いか低いかを判断したり、その率をどう設計・改善していくかを考えたりするのは、計算のその先の話になります。率で事業をどう捉え、どう設計するかは粗利・原価率の設計にゆずります。まずはこの記事の手順で、自分の粗利率という「今の数字」をひとつ出してみることが出発点になります。
AI時代の応用・次の一歩
原価・粗利率の計算は式が単純なので、生成AIを試算の下ごしらえに使うと、手間を減らせます。
たとえば、扱っている商品やサービスの内容を伝えて「この提供にかかる原価の項目を、抜けなく洗い出して」と投げると、見落としていた原価の候補を並べてくれます。原価に含めるか迷う費用について、「この費用は原価と固定費のどちらに近いか、理由もあわせて教えて」と相談するのも、線引きの整理に役立ちます。売上と原価の数字さえ渡せば、「粗利と粗利率を計算して」と頼んで検算に使うこともできます。
ただし、注意したい点があります。AIが挙げる原価の項目や計算は、こちらが渡した前提の上で成り立っているだけで、その金額が実際に合っていることを保証してはくれません。仕入れの単価も、1件にかかった外注費も、本当の数字は自分の帳簿にしかありません。AIには項目の洗い出しや検算のような下ごしらえを任せ、実際の金額を当てはめて確かめる最終判断は自分の側で、と分けて考えると、地に足のついた使い方になります。
次の一歩として、まずは主力商品ひとつを取り上げ、売上と原価を書き出して粗利率を出してみてください。原価を集計する記帳の整え方は経費計上と勘定科目へ、出した率をどう設計していくかは粗利・原価率の設計へと進めます。
よくある質問
原価には、何を含めればよいですか。 その売上を上げるために直接かかったコストだけを含めます。物販なら仕入れ、制作なら材料や外注費などです。事務所の家賃やツールの月額のように、売れても売れなくてもかかる費用は原価に入れず、別に分けて考えるのが基本になります。
粗利率は、どう計算しますか。 まず売上から原価を引いて粗利を出し、その粗利を売上で割ると粗利率になります。式にすると、粗利率=粗利÷売上です。売上100万円・原価40万円なら粗利は60万円、粗利率は60万円÷100万円で60%、という順番で計算します。
原価率と粗利率は、どう違いますか。 原価率は売上に対する原価の割合、粗利率は売上に対する粗利の割合で、足すと100%になる裏表の関係です。原価率=原価÷売上、粗利率=1−原価率なので、原価率が40%と分かれば粗利率は自動的に60%と決まります。
原価は、どうやって集計すればよいですか。 日々の記帳で仕入れや外注費などの原価にあたる費用を分けて記録しておき、会計ソフトで期間ごとに集計するのが基本です。勘定科目の分け方は経費の記録の仕方に関わるため、記帳の実務は経費計上と勘定科目にゆずります。
まとめ
原価とは、その売上を上げるために直接かかったコストのことです。仕入れや材料、外注費などが当てはまり、家賃やツール代のように売れても売れなくてもかかる固定費は、原価に含めずに分けて考えます。この線引きが、計算の出発点になります。
計算そのものは、引き算と割り算だけです。売上から原価を引いて粗利を出し、その粗利を売上で割れば粗利率が出ます。売上100万円・原価40万円なら、粗利は60万円、粗利率は60%。原価率=原価÷売上、粗利率=1−原価率という裏表の関係も押さえておけば、片方から片方がすぐに出せます。
原価は、日々の記帳で分けて記録し、会計ソフトで期間ごとに集計します。まずは直近1か月か主力商品ひとつで、売上と原価をそろえ、自分の粗利率をひとつ出してみてください。平均値や一般論と比べる必要はありません。出てきた率をどう設計・改善していくかは、次のステップとして粗利・原価率の設計へ進んでみてください。
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