同じ業界に何十社もいるように見えても、全員が同じ場所で競い合っているわけではありません。よく見ると、みんなが集まっている場所と、誰も立っていない場所があります。この誰も立っていない場所が、ホワイトスペース(空白)です。
空白は、需要があるのに供給が薄い場所を指します。ここを見つけられれば、比べられる相手が少ないまま事業を始められます。ただ、空白は「なんとなく空いていそう」という勘で決めると外します。空いて見えて、実は誰も欲しがっていない場所だった、ということが起きるからです。
この記事では、競合が手を出していない空白を、勘ではなく調査として体系的に見つける手順を解説します。ポジショニングマップの描き方、口コミや不満から空白を拾う方法、そして「空いている場所が必ず良いとは限らない」という落とし穴までを、順に扱います。
見つけた空白を自分の売りにどう変えるか、その発想の中身までは、この記事では踏み込みません。ここは「探し方」に集中し、育て方は別の記事に譲ります。
この記事の要点
- ホワイトスペースとは、需要はあるのに供給が薄い、競合がまだ埋めていない場所のことです。ここを狙うと、比べられる相手が少ないまま始められます。
- 空白を探す代表的な道具が、ポジショニングマップです。相手が選ぶときに気にする2軸を取って競合を並べ、点が集まらない象限を空白として読みます。
- もう1つの入口が、口コミや不満です。既存の選択肢への「不便・不満」は、供給が足りていない空白の合図になります。
- 空いている場所が、必ず良い場所とは限りません。採算が合わない、需要がない、という理由で空いていることもあります。見つけたら、需要があるかを確かめる段階に進みます。
- 広い空白は大手に埋められがちですが、狭い空白は残りやすく、ひとりの事業に向いています。
ホワイトスペースとは、需要はあるのに供給が薄い場所
ホワイトスペースとは、市場のなかで競合がまだ手を出していない領域のことです。とくに、求める人はいるのに、それを提供する相手が少ない場所を指します。需要と供給がずれているところ、と言い換えられます。
大事なのは、ただ空いているだけではホワイトスペースとは呼ばない点です。誰も欲しがらないから空いている場所は、いくら空いていても入る意味がありません。空白と呼べるのは、「欲しい人はいるのに、応える相手が足りていない」場所に限られます。
なぜ、ひとりの事業がここを狙うと良いのでしょうか。競合が集まっている場所に後から入ると、同じ土俵で体力を競うことになります。資本や人手で勝る相手と正面から張り合うのは、割の合わない戦い方です。いっぽう、供給が薄い空白に入れば、そもそも比べられる相手が少なく、選ばれやすくなります。
この記事で扱うのは、その空白を「調査として見つける」手順です。空白に立ったうえで、自分の強みをどう当てて売りに変えるかという発想は、業界の当たり前を逆にするで扱っています。ここは、その手前の「どこが空いているかを探す」ところに徹します。
ポジショニングマップで空白を目で見る
空白を探す代表的な道具が、ポジショニングマップです。紙に縦横の2本の軸を引き、そこへ競合を1社ずつ置いていきます。置き終わると、点が密集している場所と、点のない場所が目で見えます。点のない場所が、空白の候補です。
軸の取り方が結果を決める
マップは、どの2軸を取るかで見え方がまるで変わります。軸は、お客さんが選ぶときに気にする点から選ぶのが基本です。自分が説明しやすい軸ではなく、相手が比べるときに見る点を軸にすると、空白が実際の需要と結びつきやすくなります。
| 軸の組み合わせ | 縦軸の例 | 横軸の例 | 見えやすい空白 |
|---|---|---|---|
| 価格 × 専門性 | 高価格〜低価格 | 広く浅く〜狭く深く | 高くても一点に特化した相手が少ない場所 |
| 対象 × 提供形態 | 初心者向け〜玄人向け | 対面〜オンライン | 初心者にオンラインで寄り添う相手が薄い場所 |
| 用途 × スピード | 日常使い〜特別な日 | 早い〜じっくり | 特別な日にじっくり相談したい層が空く場所 |
軸は1組で終わらせず、何組か変えて描くのがおすすめです。「価格×専門性」で空白がなくても、「対象×提供形態」に変えると空きが現れることがあります。軸を変えるたびに、市場の別の断面が見えます。
競合を置いて、点の集まりと空きを読む
軸を決めたら、知っている競合をマップに置きます。この置く作業には、競合の情報が要ります。誰が、どんな価格で、誰に向けて、どう提供しているか。ここを集める手順は競合調査のやり方で解説しているので、先にそちらで材料をそろえると、マップが正確になります。
点を置き終えると、たいてい一か所に集まります。多くの競合が同じ象限にいるということは、そこが激戦区です。逆に、点のない象限が空白の候補になります。ただし、この段階ではまだ「候補」です。空いている理由は、この先で確かめます。
口コミと不満の谷から空白を拾う
マップは全体を俯瞰する道具ですが、空白の合図はもっと生々しい場所にも落ちています。既存の選択肢に対する口コミや不満です。
お客さんが「ここが不便だった」「こうだったら良かったのに」と漏らしている点は、いまの供給が応えきれていないところです。その不満が多くの人から繰り返し出ているなら、そこは供給の薄い谷、つまり空白の合図になります。
拾い方の例をあげます。同業のレビューやSNSの感想を読み、低い評価がどこに集まっているかを見ます。「品ぞろえは良いが対応が事務的」「早いけれど説明が足りない」。こうした不満は、裏返すと「丁寧に対応する相手」「じっくり説明する相手」が足りていない、という空白を指しています。
| よくある不満の声 | 裏に隠れた空白 |
|---|---|
| 相談したいのに、いつも急かされる | じっくり相談に乗る相手が少ない |
| 種類は多いが、自分に合うものが選べない | 選ぶのを手伝ってくれる相手が薄い |
| 安いけれど、後のフォローがない | 買ったあとを支える相手が空いている |
不満から探す方法の良いところは、需要の手ごたえが最初からある点です。誰かが実際に困っているのだから、その困りごとを解く相手には、少なくとも一定の求める人がいます。市場調査の全体像から入りたい場合は、市場調査のやり方を先に読むと、口コミの位置づけがつかめます。
空いている場所が、必ず良い場所とは限らない
ここが、空白探しでもっとも外しやすいところです。空いているのを見つけると、つい「誰も気づいていない宝を見つけた」と思いたくなります。ですが、空白には二種類あります。
1つは、誰も気づいていないから空いている場所です。これは狙い目になります。もう1つは、みんな気づいているのに、あえて誰も入らない場所です。採算が合わない、手間がかかりすぎる、そもそも欲しい人がいない。こうした理由で空いている場所に入ると、供給を始めても需要がなく、空回りします。
だから、空白を見つけたら、次に「なぜここは空いているのか」を問う必要があります。競合はプロですから、儲かる空白なら、たいてい誰かが先に入っています。それでも空いているなら、そこには理由があるかもしれない、と一度疑うのが安全です。
その疑いに答えを出すのが、需要があるかを確かめる作業です。空白に本当に求める人がいるのか、どれくらいいるのかを検証する手順は、この記事の範囲を超えます。見つけた空白に需要があるかを確かめる進め方は、ニーズ検証のやり方で解説しています。空白を見つけたら、そのまま始めず、まず需要を確かめる段階へ進んでください。
なお、ひとりの事業にとっては、狭い空白ほど狙い目になります。広い空白は大手が採算に乗せて先に埋めますが、狭くて件数の少ない空白は、大手が入っても割に合わないため残りやすいからです。空白の大きさより、大手が手を出せない狭さのほうを、ひとりの事業は味方にできます。
AI時代の応用・次の一歩
空白探しのうち、軸の候補出しや競合の整理は、生成AIに手伝わせると進みます。
たとえば、自分の業界名を伝えて「お客さんが選ぶときに気にする点を、軸の候補として10組挙げてください」と頼むと、自分では思いつかない軸が出てきます。次に、集めた競合の情報を渡して「この軸のマップ上で、それぞれをどのあたりに置けるか整理してください」と続けると、点を置く下ごしらえが速くなります。口コミの束を渡して「不満がどの点に集まっているか分類してください」と頼むのも、谷を見つける助けになります。
ただし、注意する点があります。AIは、その空白に本当に需要があるかを確かめられません。AIが「ここが空いています」と示しても、それは手元の情報から機械的に導いた見立てにすぎず、採算や需要の裏づけはありません。空白かどうかの最後の判断と、需要の確認は、市場を知っている人の側でしかできません。AIは軸出しと整理の役、決めるのは自分、という分け方にすると、空回りを避けられます。
次の一歩として、まずは知っている競合を5社ほど書き出し、2軸のマップに置いてみてください。空白の候補が見えたら、そこに需要があるかをニーズ検証のやり方で確かめ、確かめられた空白を業界の当たり前を逆にするの発想で自分の売りへ育てていく、という順で進められます。
よくある質問
ホワイトスペースと、ただのすき間商売は違うのですか。 指すものは近いですが、確かめる順番が違います。すき間商売は空いている場所へ入る発想全般を指します。ホワイトスペースの探し方は、その空いている場所をマップや口コミから体系的に見つけ、需要があるかまで確かめてから入る、という手順を含んだ考え方になります。
ポジショニングマップの軸は、どう決めればよいですか。 お客さんが選ぶときに気にする点を2つ選ぶのが基本になります。価格と専門性、対象と提供形態などです。自分の都合の良い軸ではなく、相手が比べるときに見る点を軸にすると、空白が実際の需要とつながりやすくなります。軸を変えて何枚か描くと、見え方が変わります。
空いている場所が見つかったら、すぐ始めてよいですか。 始める前に、なぜ空いているのかを確かめてください。誰も気づいていないだけの空白なら狙い目ですが、採算が合わない、そもそも需要がない、という理由で空いていることもあります。空白を見つけたら、そこに求める人がいるかを検証する段階に進みます。
ひとりの事業に、大きな空白は残っていますか。 広い空白は大手が先に埋めていることが多いですが、狭い空白はむしろ残りやすいと考えられます。大手は採算の合わない狭い範囲に入りにくいためです。全体の大きな穴を探すより、大手が手を出せない狭い空白を探すほうが、ひとりの事業には向いています。
まとめ
ホワイトスペースとは、需要はあるのに供給が薄い、競合がまだ埋めていない場所のことです。ここを狙うと、比べられる相手が少ないまま始められます。ただし、空いているだけで、誰も欲しがらない場所は空白とは呼びません。
探し方の柱は2つです。ポジショニングマップで、相手が選ぶときに気にする2軸を取り、競合を並べて点のない象限を読む方法。そして、口コミや不満の谷から、供給が応えきれていない場所を拾う方法です。マップは全体を俯瞰し、不満は生の需要の手ごたえを与えてくれます。
気をつけたいのは、空いている場所が必ず良い場所とは限らない点です。採算や需要がないために空いていることもあります。空白を見つけたら、そのまま始めず、「なぜ空いているのか」を問い、需要があるかを確かめる段階へ進んでください。狭い空白ほど大手が入りにくく、ひとりの事業の味方になります。
まずは、知っている競合を数社、2軸のマップに置いてみるところから始めてみてください。
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