事業のお金が足りないとき、金融機関より先に、親や兄弟、親しい友人の顔が浮かぶことがあります。審査や金利のことを思えば、身近な人から借りるほうが手軽に見えるのは自然なことです。
ただ、身近な相手ほど「あとで返すから」の一言で済ませてしまいがちで、そこに落とし穴があります。あいまいなまま受け取ったお金は、人間関係のもつれの種になるだけでなく、税のうえで思わぬ扱いを受けることがあります。
この記事では、家族や友人からお金を借りるときに気をつけたいことを、三つの角度から整理します。ひとつは、税務のうえで「借入」として成り立たせるための考え方。もうひとつは、創業融資で問題になる「見せ金」の話。そして、近い間柄だからこそ必要になる、条件をきちんと決める配慮です。
なお、贈与税の税率や課税されない範囲といった具体的な数字は、この記事では扱いません。制度の細部は個々の事情で変わり、最新の内容は公式で確かめるのが確実だからです。ここでは、どこに注意すればよいかという考え方に絞って進めます。
この記事の要点
- 家族・友人からの借入は、審査や金利の面で借りやすい反面、条件をあいまいにすると人間関係のトラブルや税の問題につながりやすい手段です。
- 税務のうえで「借入」として成り立たせるには、金銭消費貸借契約書を作り、実際に返済を続け、その記録を残すことが手がかりになります。実態がないと「贈与」とみなされ、贈与税の対象になりうるとされています。
- 創業融資の審査で、一時的に借りたお金を自己資金に見せかける「見せ金」は認められません。自己資金は、時間をかけて実際に備えたお金であるべきとされています。
- 贈与税の税率や非課税の範囲などの数字は変わりやすく、判断も個々の事情によります。具体的な内容は国税庁の情報や税理士で必ず確認してください。
借りやすいけれど、あいまいさが危ない
家族や友人からの借入には、金融機関にはない身軽さがあります。信用情報の審査を通す必要がなく、利息の条件もやわらかくしてもらえることがあり、話が早い場面も多いでしょう。手元の事情をよく知る相手なら、書類だけでは伝わらない事情もくんでくれます。
その借りやすさが、そのまま弱点にもなります。相手が近いほど、金額や返し方をはっきり決めないまま、口約束でお金が動いてしまいがちだからです。曖昧なまま受け取ったお金は、二つの面で後を引きます。
ひとつは、人間関係の面です。「いつ返すつもりだったのか」「そもそも返す約束だったのか」という認識のずれは、近い相手であるほど言い出しにくく、こじれると長く尾を引きます。もうひとつが、この記事で重く見る税の面です。あいまいなお金は、税務のうえで「借りたお金」と認めてもらいにくく、思わぬ扱いを受けることがあります。
身近な相手からの借入は、手軽さだけを見て手を出すのではなく、こうした二つのリスクを承知したうえで、他人から借りるのと同じ丁寧さで進めるのが安全だと考えられます。
税務で「借入」として成り立たせるには
税務のうえで大切なのは、そのお金が「借りたもの(あとで返すお金)」なのか、「もらったもの(返さなくてよいお金)」なのかを、外から見て確かめられる状態にしておくことです。当人どうしが「これは借入だ」と思っていても、その実態を示すものがなければ、借入として扱ってもらえないことがあります。
借入としての実態を示す手がかりは、大きく分けて次のようなものだとされています。
- 契約書があること:いくら借り、いつまでに、どういう方法で返すかを書いた金銭消費貸借契約書を、貸す側と借りる側で交わしておく
- 返済を続けていること:契約に沿って、実際に返済を続けている
- 記録が残っていること:返済を手渡しではなく振込などで行い、いつ・いくら返したかの記録が残る形にしておく
口約束だけで、返した形跡もないお金は、外から見れば借入なのか贈与なのか区別がつきません。契約書という取り決めと、返済という実際の動きの両方がそろってはじめて、「これは借入だ」と示しやすくなる、という関係です。
面倒に感じるかもしれませんが、これは相手を疑うための書類ではありません。金額と返し方をお互いの手元に残しておくことは、貸す側にとっても借りる側にとっても、あとで話が食い違わないための備えになります。
あいまいだと「贈与」とみなされることがある
契約書も返済の実態もないままお金を受け取ると、税務のうえでは、それが借入ではなく「贈与」、つまりもらったお金とみなされることがあるとされています。そして贈与とみなされた場合、贈与税の対象になりうると説明されています。
「親から借りただけなのに税金がかかるのか」と意外に思うかもしれません。けれど税務は、当人の気持ちではなく、外から確かめられる実態で判断される部分があります。返す約束のあるお金だったと示すものがなければ、もらったお金と区別がつかないため、こうした扱いが起こりうるわけです。
ここで大切なのは、贈与税の税率がいくらか、いくらまでなら課税されないか、といった数字をこの記事で覚えることではありません。そうした具体的な金額や特例は改定されることがあり、課税されるかどうかの判断も、金額や間柄、そのほかの事情によって変わります。うろ覚えの数字で「これくらいなら大丈夫」と決めてしまうのが、最も危ういやり方です。
押さえておきたいのは、「契約書と返済の実態がないと、借入のつもりが贈与とみなされ、課税につながることがある」という一点です。具体的にどうなるかは、国税庁の公式情報(https://www.nta.go.jp/)で確かめるか、金額が大きい場合や不安がある場合は税理士に相談してください。
見せ金は認められない
身近な借入をめぐって、創業融資の場面で問題になるのが「見せ金」です。これは、融資の審査に向けて、一時的にどこかから借りたお金を自分の口座に入れ、こつこつ貯めた自己資金であるかのように見せかける行為を指します。
なぜこれがいけないのか。創業融資では、事業者がどれだけ自分でお金を備えてきたか、つまり自己資金が一つの目安として見られることがあります。自己資金は、単なる金額ではなく、計画的に準備を積み上げてきたかどうかを映すものと受け止められるためです。そこに、直前に借りて入れただけのお金を混ぜて金額を大きく見せる行為は、実態を偽ることにあたり、認められていません。
一時的に借りたお金は、通帳の動きを見れば、直前にまとまって入り、また抜けていく形で残ります。こうした不自然な動きから見せ金が発覚すれば、その一件だけでなく、事業者そのものへの信用を損ないかねません。目先の見栄えのために、最も大切な信用を危険にさらすのは割に合わない、と考えられます。
自己資金は、本来、時間をかけて実際に備えてきた、実態のあるお金であるべきとされています。その地道な備え方そのものは自己資金の準備・貯め方でまとめています。身近な人から借りたお金は、あくまで借入として正しく扱い、自己資金に見せかけないことが大前提になります。
親しい間柄ほど、他人と同じくらいきちんと
最後に、税務とは別の、けれど同じくらい大切な話です。親しい相手から借りるときこそ、条件を他人と同じくらいきちんと決めておくほうが、結果として関係を守りやすいと考えられます。
近い間柄だと、「わざわざ契約書なんて水くさい」「金額や期限をきっちり決めるのは失礼だ」と感じて、あいまいなまま進めたくなります。ところが、あいまいさは相手への思いやりのようでいて、実際にはあとでのもつれの原因になりがちです。いくら借りたのか、いつ返すはずだったのか、その認識が少しずれるだけで、近い相手であるほど言い出しにくく、気まずさが積もっていきます。
だからこそ、金額・返し方・時期を書面にしておくことは、税務のためだけでなく、お互いの関係を守るための配慮でもあります。前の項で触れた契約書は、この二つの役目を同時に果たします。
あわせて考えておきたいのが、返せなかったときのことです。事業のお金は、計画どおりに回るとは限りません。もし返済が滞ったらどう相談するか、相手にどこまで負担をかける可能性があるかを、借りる前に一度想像しておく。返せる見込みの立たないお金を、近い関係に甘えて借りてしまうのは、相手にとっても自分にとっても重荷になります。身の丈を超えて借りすぎないという構えは、身近な借入でこそ大切になります。創業期に自己資金と融資をどう組み立てるかは創業期の資金調達の考え方で扱っています。
AI時代の応用・次の一歩
家族や友人からの借入を考えるとき、生成AIは、下調べや準備の整理に使えます。
たとえば、「家族から事業資金を借りるとき、税務のうえで借入として認められるために気をつけることを整理して」と投げると、契約書や返済の記録といった論点を並べて返してくれます。金銭消費貸借契約書にどんな項目を書くのか、たたき台の構成を挙げてもらう使い方にも向いています。頭のなかだけで考えるより、確認すべき点を一覧にして眺められるのが利点です。
ただし、ここには外せない注意点があります。贈与税がかかるかどうか、いくらまでなら問題にならないかといった税の判断は、改定されやすく、また個々の事情によって変わるため、AIが古い情報や一般論のまま答えることがあります。AIの答えは、論点を洗い出す下書きとしては役立ちますが、実際の課税の判断や契約書の最終的な内容は、必ず一次情報で確かめてください。税のことなら国税庁の公式情報(https://www.nta.go.jp/)を出どころにし、金額が大きい場合や判断に迷う場合は税理士に相談する。全体像の整理はAIで、最終の判断は公式と専門家で、と分けて使うのが安全です。
次の一歩として、借りる相手が決まっているなら、金額・返し方・時期を書き出し、契約書のたたき台を作るところから始めてみてください。あわせて、公的な創業融資という選択肢を知っておくと、身近な借入だけに頼らない組み立ても見えてきます。創業期の代表的な公的融資は新規開業・スタートアップ支援資金で扱っています。
よくある質問
家族から借りたお金でも、契約書は必要ですか。 作っておくほうが安全だと考えられます。口約束のままだと、税務のうえで「借りたお金」なのか「もらったお金」なのかを外から確かめられません。いくら借りて、いつ、どう返すかを書いた金銭消費貸借契約書を交わし、実際に返済を続けて記録を残しておくと、借入としての実態を示しやすくなります。
契約書がないと、借入でも贈与税がかかるのですか。 かかる場合があるとされています。契約書も返済の実態もないと、税務のうえでは借入ではなく贈与、つまりもらったお金とみなされ、贈与税の対象になりうると説明されています。具体的な税率や課税の判断は個々の事情で変わるため、詳しくは国税庁の情報や税理士で確認してください。
見せ金とは何ですか。なぜいけないのですか。 創業融資の審査に向けて、一時的に借りたお金を自分の口座に入れ、こつこつ貯めた自己資金のように見せかける行為を指します。実態のないお金を自己資金に見せる行為は認められておらず、発覚すれば信用を失いかねません。自己資金は、時間をかけて実際に備えたお金であるべきとされています。
親しい相手なら、条件はゆるくしてもよいですか。 むしろ他人と同じくらいきちんと決めておくほうが、関係を守りやすいと考えられます。金額・返し方・時期があいまいなままだと、あとで認識の食い違いが起きやすく、近い間柄ほど気まずさが尾を引きます。返せなかったときにどうするかまで話しておくと、双方が安心して構えられます。
まとめ
家族や友人からの借入は、審査や金利の面で借りやすい反面、条件をあいまいにすると、人間関係のもつれと税の問題という二つのリスクを抱えます。手軽さだけを見て手を出すのではなく、他人から借りるのと同じ丁寧さで進めるのが安全です。
税務のうえで「借入」として成り立たせる手がかりは、金銭消費貸借契約書を作ること、実際に返済を続けること、その記録を残すことです。契約書も返済の実態もないと、借入のつもりが贈与とみなされ、贈与税の対象になりうるとされています。ただし税率や課税されない範囲などの数字は変わりやすく、判断も事情によるため、具体的な内容は国税庁の情報や税理士で必ず確認してください。
創業融資の場面では、一時的に借りたお金を自己資金に見せかける見せ金は認められません。自己資金は、時間をかけて実際に備えたお金であるべきです。そして近い相手ほど、金額・返し方・時期をきちんと決め、返せなかったときのことまで考えておくことが、税務のためにも関係を守るためにも役立ちます。身の丈を超えて借りすぎない構えを持って、身近な借入と向き合ってください。
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